最終更新日 2026年10月8日
人材育成とは、組織が描いた完成形に人を近づけることなのでしょうか。
AIによるスキルの可視化が進む今、「求める人材像」と一人ひとりの可能性をどう重ねるかが、これまで以上に重要になっています。
本稿では、AI時代のタレントマネジメントやスキルマップにも触れながら、人材育成のあり方を考えます。
企業や自治体の人材育成では、「求める人材像」を定めるのが一般的です。
若手には主体的に考え行動できる人に、管理職には部下を育てチームをまとめられるリーダーに。
組織が目指す姿から必要な能力を定め、研修体系や人事評価、配置に落とし込んでいく。
組織として育成を進める以上、欠かせない作業です。
ただ、研修の現場に立っていると、ときどき考えることがあります。
私たちが「この人は成長した」と判断するとき、それは誰の物差しで測っているのでしょうか。
会議であまり発言しない若手を見れば「もっと積極性を」と考え、なかなか決断しない管理職を見れば「決断力を」と考える。
それは自然なことですし、実際にその力を伸ばす必要がある場面もあります。
一方で、発言が少ない人は、人の話をじっくり聴き、考えてから言葉にすることが得意なのかもしれません。
慎重な管理職だからこそ、周囲が見落としているリスクに気づいているのかもしれません。
弱みを補うことと、可能性を伸ばすことは、必ずしも同じではありません。
求める人材像を細かく定め、評価項目を整えるほど、私たちは無意識に「この人を、ここまで近づけよう」と考えがちです。
仕組みを整えることが、かえって一人ひとりを見る目を狭くしていないか。
人材育成を設計するときに、一度立ち止まって確かめたい点です。
人事領域では今、AIを活用したタレントマネジメントが広がっています。
職務経験や保有スキル、研修履歴、資格などのデータを分析し、組織のスキルマップをつくる。
どの仕事にどんなスキルが必要で、組織に何が不足していて、誰にどんな仕事や学習機会が合いそうか。
これまで上司や人事担当者の経験と勘に頼っていた部分を、データで補えるようになりました。
私たちも、これは人材育成にとって大きな可能性だと考えています。
ただ、スキルマップに表れるのは、主にこれまでの経験と、現時点で確認できる能力です。
人には、まだ経験したことのない仕事があります。本人も気づいていない強みがあります。
誰かとの出会いや新しい挑戦によって、初めて表に出てくる力もあります。
スキルマップに、私の未来は映っていなかった
自身、会社員時代は研修が好きではありませんでした。
ところが、ある研修との出会いをきっかけに仕事への向き合い方が変わり、それが人材育成の道につながりました。
会社を立ち上げ、気がつけば20年、この仕事を続けています。
当時の私を職務経験や保有スキルだけで分析していたら、「研修講師」や「人材育成会社の経営者」という未来は、おそらく見えなかったでしょう。
問題はAIそのものではありません。
AIが示したデータや予測を、人間が「この人はこういう人だ」という答えにしてしまうことです。
見えている能力と、その人の可能性は、同じではないのです。
では、組織は求める人材像を持たないほうがいいのか。そうではありません。企業には顧客に価値を届け、事業を続ける役割があります。
自治体には、住民によりよいサービスを提供する役割があります。
人材育成を「本人の好きにすればいい」で終わらせることはできません。
かといって、「組織が求める人材に、あなたを変えます」でもない。
大切なのは、本人が持っているものと、組織が必要としているものの接点を探すことです。
その接点は、研修だけで見つかるものではありません。
上司との日常の対話、仕事を任される機会、新しい役割への挑戦、失敗を振り返る時間。
その積み重ねの中で、本人が「自分は何が得意なのか」「何を大切にしたいのか」「この組織でどんな価値を生み出せるのか」を考えていく。
研修は、そのきっかけをつくる場だと私たちは考えています。
私たちが長年、研修の中で大切にしている問いがあります。
「それで、どうしますか?」
考え方や手法を紹介することはできます。
講師として「こうしたほうがいい」と伝えることもできます。今ならAIに尋ねれば、さらに多くの選択肢がすぐに示されるでしょう。
それでも、最後にどうするかを決めるのは本人です。
だから私たちは、研修を「正解を教える場」で終わらせず、学んだことを材料に、自分はどうするのかを考えて決める場にしたいと考えています。
そしてその一歩が、本人の満足にとどまらず、職場や組織、顧客や住民への価値につながっていく。
そこまでを含めて人材育成だと考えています。
AIによるスキルの可視化は、これからますます進むでしょう。
それを配置や育成に生かすことには、大きな価値があります。
だからこそ人間には、まだ見えていない可能性まで先に決めてしまわないという役割が残ります。
AIにも、人事にも、上司にも、研修講師にも、人の未来を完全に予測することはできません。
人は出会い、経験し、ときに失敗しながら、自分でも知らなかった可能性に出会っていくからです。
最後に、ひとつ問いを置かせてください。
あなたの組織で「成長した」と評価されている人は、誰が描いた姿に近づいた人でしょうか。
その物差しでは、まだ見えていない可能性を持つ人が、あなたの組織にもいるかもしれません。
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求める人材像と一人ひとりの持ち味をどう重ねるか。
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株式会社アイル・キャリア代表取締役。
2006年の創業以来、企業・自治体の人材育成に携わり、研修・人材開発の現場に立ち続けています。
自身も一つの研修との出会いによって人生が大きく変わった経験から、
「人には可能性がある」ことを人材育成の原点としてきました。
20年間の実践を通じてたどり着いたのは、学びを一過性のものにせず、
人と組織が変わり続けるためには、意志や熱意だけではなく「仕組み」が必要であるという考えです。
現在は、AI時代だからこそ大切にしたい人間らしさと、
一人ひとりの持ち味や可能性を活かす人材開発を追究しています。