最終更新日 2026年9月18
以前、ある研修会社の方から、こんな話を聞いたことがあります。
「研修テーマを決めて、研修会社を選び、評判のよい講師にお願いすれば、
あとは任せておけば大丈夫」
と考えている研修担当者の方も少なくない、と。
一度だけではありません。
似たような話を、これまで何度か耳にしてきました。
もちろん、私自身が研修担当者の方から直接そう言われたわけではありません。
ただ、20年間、企業や自治体の研修に携わってきた私自身の肌感覚としても、「分からなくはない」と感じるところがあります。
研修テーマを決める。研修会社や講師を選ぶ。日程や会場を決める。そして当日の運営をお願いする。
業務として考えれば、そこで一つの区切りがつくように見えるからです。
けれども、その一方で、研修担当者の方から、
「研修を実施しても、職場での実践につながっているのか分からない」
「研修直後の反応はいいけれど、その後の行動が変わっているのだろうか」
といった悩みを伺うこともあります。
ここに、私は少し引っかかるものがあります。
研修テーマを決め、よい講師に任せることと、研修によって人や職場に変化が生まれることは、本当に同じなのでしょうか。
もちろん、「何を学ぶか」は重要です。「誰から学ぶか」も重要です。
組織の課題や時代の変化に応じて必要なテーマを選び、そのテーマにふさわしい講師を選ぶ。それは研修担当者にとって大切な仕事です。
ただ、それだけで研修の成果まで決まるわけではありません。
20年間、研修の現場に携わってきて、最近あらためて考えることがあります。
「何をやるか」と同じくらい、「どうやるか」を考えているだろうか。
ということです。
そのうえで研修に参加し、自分の仕事の進め方と照らし合わせながら学ぶ。
最後には、「職場に戻ったら何を変えるのか」を自分で決める。
実際に職場で試してみる。
しばらくして、その結果を振り返る。場合によっては、上司や同僚にも関わってもらう。
どちらも、実施しているテーマは「タイムマネジメント研修」です。
ここでいう「どうやるか」とは、講師が分かりやすく説明するとか、グループワークを増やすといった、
研修当日の進め方だけを指しているわけではありません。
研修前に、どんな問いを持って参加してもらうのか。
研修中に、受講者自身がどれだけ考え、自分の仕事と結びつけるのか。
研修後に、何を実践し、どう振り返るのか。
上司や職場は、そこにどう関わるのか。
つまり、研修という「一日」だけではなく、研修前・研修当日・研修後、そして職場実践までを、一つの学習プロセスとして考えるということです。
私は以前から、学びとは「新たな可能性に出会う旅」だと考えてきました。
一日の研修を設計するのではなく、その前後を含めて、一人ひとりのLearning Journey、
「学びの旅」を設計する。
研修を「点」ではなく「プロセス」として捉えるということです。
もちろん、それは大切なことです。
ただ、正直に言うと、私はこの反応だけでは、まだ何とも言えないと思っています。
本当に見たいのは、その先です。
職場に戻って、実際に何かをやってみたのか。
仕事の進め方や周囲との関わり方に、小さくても変化が生まれたのか。
そして、その変化が続いているのか。
私は、
「分かった」と「できる」の間には、実践がある。
「できる」と「続く」の間には、仕組みがある。
と考えています。
研修で「明日からやってみよう」と思っても、職場へ戻れば、目の前にはいつもの仕事があります。
忙しくなれば、研修で決めたことを忘れてしまうこともある。
人は、それほど強くありません。
だから私は、長年、
「人は強くない。だから仕組みがいる。」
ということを大切にしてきました。
研修後の行動を、受講者個人の意志やモチベーションだけに委ねない。
思い出す仕掛けをつくる。振り返る機会をつくる。上司との対話につなげる。
そうした仕組みまで含めて考えることが、研修を職場での実践や行動変容につなげるためには必要なのだと思います。
これまで研修で時間をかけて「教えていたこと」の一部は、AIに聞けば、その場で答えが返ってくるようになりました。
だからといって、研修が必要なくなるとは思いません。
むしろ私は、研修で「何を教えるか」だけを考える時代から、
「人がどう学び、どう実践し、どう変わっていくのか」を設計する時代へ移りつつあると感じています。
知識を得ることが以前より容易になるからこそ、その知識を自分の仕事とどう結びつけ、
実際に試し、振り返り、自分なりの行動へ変えていくのか。
人材育成において問われる「HOW」の範囲は、むしろこれから広がっていくのではないでしょうか。
そして、その「どうやるか」を考えるうえで、重要な仕掛けは、必ずしも大掛かりなものでなくてもよいと思っています。
研修の最後に、小さな実践を一つ決める。
一定期間後に、自分自身で振り返る。
上司が「研修で決めたこと、やってみてどうだった?」と一言問いかける。
こうした小さな仕掛けでも、学びと職場をつなぐことはできます。
大切なのは、決まったフォローアップの形を導入することではありません。
「どんな変化を生み出したいのか」から逆算して、学びが職場で続く仕組みを考えることです。
WHAT――何を学ぶか。
HOW――どう学び、どう実践につなげるか。
そして、CHANGE――その結果、何が変わるのか。
研修企画とは、「何を教えるか」を決めることだけではないのかもしれません。
「どんな変化につなげたいのか」から逆算して、学びのプロセスを設計すること。
それが、これからの研修担当者の仕事になっていくのではないでしょうか。
来年度の研修計画を立てるとき、「今年は何をやろうか」と考える。
その問いは、もちろん大切です。
ただ、その先に、もう二つの問いを加えてみる。
このテーマを、どうやって職場まで届けるのか。
そして、
その先に、どんな変化を生み出したいのか。
「何をやるか」だけでなく、「どうやるか」へ。
そして、「何を変えたいのか」へ。
AI時代の研修設計では、そんなところから研修企画そのものを見直してみてもよいのではないでしょうか。
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株式会社アイル・キャリア代表取締役。
2006年の創業以来、企業・自治体の人材育成に携わり、研修・人材開発の現場に立ち続けています。
自身も一つの研修との出会いによって人生が大きく変わった経験から、
「人には可能性がある」ことを人材育成の原点としてきました。
20年間の実践を通じてたどり着いたのは、学びを一過性のものにせず、
人と組織が変わり続けるためには、意志や熱意だけではなく「仕組み」が必要であるという考えです。
現在は、AI時代だからこそ大切にしたい人間らしさと、
一人ひとりの持ち味や可能性を活かす人材開発を追究しています。