最終更新日 2026年9月4日

AI時代の人材開発
~ AIに任せることで、人は何を経験しなくなるのか ~

最近、自分の中で「まずAIに聞いてみよう」が、ずいぶん増えたように感じます。

仕事で分からないことがあったとき。資料を探すとき。文章を考えるとき。何か新しいアイデアが欲しいとき。

以前なら、自分で考えたり、検索したり、誰かに聞いたりしていた場面で、気がつけば最初に生成AIを開いている。

AIが答えを出してくれること自体には、もうそれほど驚かなくなりました。

むしろ最近、私が少し気になっているのは、AIが私たちの「考え始める場所」になりつつあることです。

そして先日、それが仕事だけではないことに気づきました。

きっかけは、妻との旅行の相談でした。

旅先を選ぶ、その入口からAIだった
妻と「今度の連休にどこか旅行へ行こうか」という話になりました。
 
気づけば、もう1か月ほどしかありません。
 
「早く決めないとね」と話しながら、二人が自然に始めたのが、AIに旅先の候補を尋ねることでした。
 
それぞれが条件を入れて候補を出してもらい、持ち寄る。
 
そこから最初に話し合ったのは、
 
「今回の旅行で、私たちは何を大切にしたいんだろう」
 
ということでした。
 
ゆっくり過ごしたいのか。食を楽しみたいのか。予算や距離をどう考えるのか。
 
最近災害に見舞われた地域を旅先に選ぶことで、少しでも応援できないか、という話にもなりました。
 
AIによって情報収集の時間が短くなったからこそ、私たち二人が「何を大切にしたいのか」を話す時間を持てた。
 
これは、AI活用によって得られた大きな価値だと思います。
 
その一方で、ふと思いました。
 
旅先を選ぶ、その入口からもうAIなんだな…、と。
 
効率化が消していく「遠回り」

以前なら、本屋で旅行雑誌を眺めたり、「最近どこか行ってよかった?」と誰かに聞いたり、あちこち検索して比べたりしていたはずです。

効率だけで考えれば、実に、無駄の多い時間です。

でも、その遠回りは、本当にすべてなくしてよいものなのでしょうか。

人材育成の仕事に20年以上携わってきた自分自身を振り返っても、一見非効率だった経験から学んだことが少なくありません。

雑用、下積み、飛び込み営業。

足を棒にするほど歩き回ったこともあります。

決して効率的な仕事の進め方ではありません。

ところが、「こんなきつい仕事、いつまでも続けたくない」と思ったからこそ、どう話せば聞いてもらえるのか、どうすれば成果が出るのか、自分で考え、工夫するようになりました。

非効率だったからこそ、考えざるを得なかったのです。

振り返ってみれば、遠回りや失敗、うまくいかなかった時間の中で、考えたり、工夫したり、自分自身を知ったりした経験は、意外に多いものです。

「AIにできる仕事」と「AIに任せるべき仕事」は同じか

もちろん、だからといって昔の非効率な働き方に戻れと言いたいわけではありません。

 

長時間労働や理不尽な指導を、人を育てるために必要な苦労として肯定するつもりもありません。

 

AIや仕組みに任せられるものは、積極的に任せればいい。

 

私は以前から、

 

「人は強くない。だから仕組みがいる」

と考えてきました。

意志力だけでは続かないことを、仕組みや習慣化の設計によって支える。

生成AIもまた、人間の弱さを補い、可能性を広げてくれる強力なパートナーになり得ます。

 

ただ、考えれば考えるほど、簡単ではないとも感じます。

 

たとえば資料探し。

 

AIに任せた方が圧倒的に速い。

 

でも、自分で探している途中で、目的とは違う資料に出会い、

 

「これは何だろう」と興味を持つことがあります。

 

情報収集も同じです。

 

生成AIは大量の情報を短時間で整理してくれます。でも、人と直接話したときの表情や声の調子、その場の空気から感じ取るものもある。

 

一見無駄に思える雑談から、新しいアイデアが生まれることもあります。

 

そう考えると、

 

「これはAIに任せる。これは人間がやる」と、きれいに仕分けられるほど、

 

人間の経験は単純ではないのかもしれません。

 

 

「その過程で、人は何を経験しなくなるのか」

 

という問いを持っておきたいと思うのです。

AI時代だからこそ、五感を磨く

AIはこれから、もっと調べ、まとめ、比較し、提案してくれるようになるでしょう。

 

だからこそ、人間の側には、意識して残しておきたいものがあります。

 

自分の目で見る。

 

自分の耳で聞く。

 

実際に足を運ぶ。

 

人と直接話す。

 

その場の空気を、自分の身体で感じる。

 

自分でやってみる。

 

失敗する。

遠回りする。

 

そして、そこで自分が何を感じたのかを大切にする。

 

私は最近、そんな人間ならではの感覚を、

 

「手触り、肌触り、心触り」

 

という言葉で考えています。

 

予定していなかったものに出会って、「あれ?」と思う。

 

誰かと話していて、言葉ではうまく説明できない違和感を覚える。

 

実際にやってみたら、頭で考えていたこととはまったく違っていた。

 

そういう経験は、効率という物差しでは評価しにくいものです。

 

けれども、人が何かを学んだり、新しいものを生み出したり、自分なりの判断をしたりする

 

とき、こうした感覚が意外に大きな役割を果たしているのではないでしょうか。

どの「無駄」を残すのか

冒頭の旅行では、AIによって情報収集の時間が短くなったことで、

 

妻と「何を大切にしたいのか」を話す時間が生まれました。

 

これは、なくしてよかった「無駄」だったのかもしれません。

 

でも、本屋で偶然知らなかった土地を見つけること。

 

誰かとの雑談から、「そこなら行ってみたい」と思うこと。

 

目的もなくページをめくりながら、気持ちが動くこと。

 

そうした遠回りまで、すべてなくしてよいのかと問われると、私にはまだ答えがありません。

 

おそらく、人材育成も同じです。

 

AIで効率化できることは、これからますます増えていくでしょう。

 

だからこそ人材開発に携わる私たちは、

 

「何をAIに任せるか」だけでなく、「どんな経験を人に残すのか」

 

を考える必要があるのではないでしょうか。

 

AIによって生まれた時間を、さらに多くの仕事で埋めるのか。

 

それとも、人と話すこと、実際に経験すること、考えること、感じることに使うのか。

 

正解は一つではないと思います。

 

ただ、便利になることと、人の心が豊かになることは、必ずしも同じではありません。

 

だからこそ、AIがますます身近になるこれからの人材育成では、

 

効率では測りにくいものも、意図的に残していきたい。

 

手触り、肌触り、心触り。

 

AIに何を任せるのか。

 

そして、

 

人間に何を残すのか。

 

効率化が進む今だからこそ、私はこの問いを、

 

人材開発に携わる一人として持ち続けたいと思っています。

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この記事の監修者

五十嵐康雄

代表取締役社長

五十嵐 康雄

株式会社アイル・キャリア代表取締役。

2006年の創業以来、企業・自治体の人材育成に携わり、研修・人材開発の現場に立ち続けています。

自身も一つの研修との出会いによって人生が大きく変わった経験から、

「人には可能性がある」ことを人材育成の原点としてきました。

 

20年間の実践を通じてたどり着いたのは、学びを一過性のものにせず、

人と組織が変わり続けるためには、意志や熱意だけではなく「仕組み」が必要であるという考えです。

 

現在は、AI時代だからこそ大切にしたい人間らしさと、

一人ひとりの持ち味や可能性を活かす人材開発を追究しています。

代表取締役社長

五十嵐 康雄

株式会社アイルキャリアはお客様ごとに抱える課題や目標に合わせたオーダーメイド研修で”学び”を提供する研修会社です。

官公庁・自治体から上場企業、医療法人や学校法人まで業界業種・官民問わず様々なお客様に対して、ご要望と時流をふまえた上で、必要な”学び”を新人から管理職まで幅広く人材育成を支援しております。

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