最終更新日 2026年10月29日
執筆者 代表取締役社長 五十嵐 康雄
研修体系の見直しはどこから始める?
研修担当者のための全体像と進め方
企業・自治体の研修担当者に向けて、研修体系を見直す5つのステップと、職場実践につなげる設計のポイントを解説
この記事の要点
研修体系の見直しは、研修の一覧表を作り直すことではありません。
組織が目指す人材像と現在の研修とのずれを確かめ、研修の目的・対象・順序・つながりを再設計することです。
見直しは、次の5つのステップで進めます。
この記事では、企業・自治体の研修担当者に向けて、実際の支援事例を交えながら、研修体系の見直し方を解説します。
研修体系の見直しとは、組織が目指す人材像に照らして、研修の目的・対象・順序・つながりを組み直すことです。
研修体系とは、新規採用職員研修、階層別研修、テーマ別研修など、組織で実施する研修全体の構成を指します。
見直しというと、「研修を増やす」「研修を減らす」「研修内容を新しくする」といったことを想像しがちです。
しかし、本質はそこではありません。
一つひとつの研修が、どのような人材を育てるために、誰を対象に、どのような順序で行われているのか。
その筋道を通し直すことが、研修体系を見直す目的です。
また、研修体系は、人材育成体系の一部でもあります。
人材育成には、研修だけでなく、OJT、職務経験、配置、評価、キャリア支援など、さまざまな仕組みがあります。
だからこそ、研修体系を見直す際には、研修の外側にある職場や組織の仕組みとのつながりも考える必要があります。
次のような状態が見られる場合は、研修体系を点検するタイミングかもしれません。
複数の項目に当てはまる場合や、人材育成方針と研修のつながりが不明確な場合は、個々の研修を手直しするだけでなく、体系全体を点検することをおすすめします。
ただし、すべての研修を一度に変更する必要はありません。
まず現状を把握し、どこから見直すべきかを考えることが大切です。
研修体系の見直し方|5つのステップと具体的な進め方
研修体系の見直しは、次の5つのステップで進めると整理しやすくなります。
研修の企画・実施・評価の流れを示すADDIEモデルなども参考にしながら、研修体系全体の見直しに必要な実務上の手順として整理したものです。
ステップ1|目指す人材像と育成方針を確かめる
最初に確認したいのは、組織がどのような人材を育てたいのか、ということです。
自治体であれば人材育成基本方針、企業であれば経営計画や人事制度などが手がかりになります。
例えば、3〜5年後に組織の中心を担う人材には、どのような役割を期待するのでしょうか。
管理職には、どのようなマネジメント行動が求められるのでしょうか。
中堅職員には、どのような力を発揮してほしいのでしょうか。
こうしたことが曖昧なまま研修を並べ替えても、体系の軸は定まりません。
まずは、目指す人材像や期待する行動を、できるだけ具体的な言葉にすることが出発点です。
ステップ2|現状とのずれを把握し、課題を見極める
次に、目指す人材像と現状との間に、どのようなずれがあるのかを確かめます。
ここで重要なのは、その課題が本当に研修で解決すべきものなのかを見極めることです。
例えば、職員の主体性が不足しているように見えても、その背景には、知識や技能の不足だけでなく、役割の曖昧さ、業務量、評価制度、職場環境などが関係しているかもしれません。
研修を増やしても、原因が業務の仕組みやマネジメントにあるのであれば、期待する変化は起こりにくいでしょう。
研修以外の手段も含めて解決策を考えることが、研修体系の見直しには欠かせません。
企業の事例|現場インタビューから研修課題を明確にした取組
ある中小企業から、「職場のコミュニケーションを良くしたい」「上司と部下の関係を改善し、報告・連絡・相談が円滑に行われるチームをつくりたい」というご相談をいただきました。
ただ、初めてお取引する企業であり、私たちが把握している情報は限られていました。
そこで、すぐに研修内容を決めるのではなく、まず現場で働く社員の方々へのインタビューをご提案しました。
人事担当者が感じている課題と、現場の社員が感じている課題を整理し、本当に研修で対応すべきことは何かを考えるためです。
その結果を踏まえ、現場の声を取り入れた体感型のプログラムを設計しました。
研修当日は、座学中心の研修に慣れていない受講者の方々も、集中を切らさずに取り組んでくださいました。
この経験からも、研修を設計する前に、お客様自身がまだ十分に言語化できていない課題を捉えることの重要性を感じています。
ステップ3|今の研修を棚卸しし、優先順位を決める
目指す人材像と課題が整理できたら、現在実施している研修を一覧にします。
このとき、研修名や対象者だけでなく、次のような項目を確認します。
| 確認項目 | 確認したいこと |
| 研修の目的 | 何を変えるための研修か |
| 対象者 | 誰に、どの段階で必要か |
| 育成したい能力・行動 | 研修後に何ができるようになるか |
| 人材像とのつながり | 組織が目指す人材像にどう結びつくか |
| 職場実践 | 学んだことを試す機会があるか |
| 効果の確認 | 何をもって成果を判断するか |
こうした棚卸しを行うことで、目的が重なっている研修や、現在の育成方針とのつながりが見えにくい研修が明らかになります。
そのうえで、限られた予算と時間の中で、何を優先し、何を改善し、何を統合・廃止するかを検討します。
新しい研修を追加することだけが、見直しではありません。
何を続け、何を変え、何をやめるかを判断することも、研修体系の設計です。
ステップ4|体系を組み替え、研修前後と職場実践まで設計する
優先順位が決まったら、階層別研修やテーマ別研修を組み替えていきます。
ここで私が特に大切だと考えているのは、研修体系を二つの方向から捉えることです。
一つは、人材育成の「縦のつながり」です。
新規採用職員、中堅職員、係長、管理職といった成長段階に応じて、どのような能力を身につけ、どのような役割を担っていくのか。
もう一つは、学習から職場実践への「横のつながり」です。
研修前に上司と目標を確認し、研修で学び、職場で実践し、振り返りを通じて次の行動につなげる。
この二つのつながりを考えることで、研修体系は単なる科目の一覧表ではなく、人が育ち、行動が変わる仕組みに近づきます。
研修で学んだことが職場で活かされるかどうかには、本人の意欲だけでなく、研修の設計や上司の支援、実践の機会なども関わります。
研修を受けた本人の努力だけに任せず、職場で実践できる環境まで考えることが大切です。
ステップ5|効果を測り、翌年度の改善につなげる
最後に、研修の効果をどのように確かめるかを考えます。
受講後の満足度だけでなく、学んだことを理解したか、職場で行動が変わったか、組織の成果につながったか。
こうした視点は、カークパトリックの4段階評価モデルとして広く知られています。
ただし、すべての研修で組織成果まで厳密に測定する必要はありません。
研修の目的や重要度に応じて、何をどのように確認するかを決めることが大切です。
自治体の事例|行動変容を確認するフォローアップアンケートの改善
ある自治体の希望者受講研修で、受講後のフォローアップアンケートについてご相談をいただきました。
テーマは、効率的な仕事の進め方や時間管理です。
そこで、単に「研修が役立ったか」を尋ねるのではなく、研修後に仕事の進め方がどう変わったのかを確認できる項目へ見直すことをご提案しました。
参考にしたのは、カークパトリックの4段階評価モデルです。特に、学んだことが実際の行動につながったかを確かめる「行動」の視点を重視しました。
担当者の方からは、従来のアンケートよりも行動変容を確認しやすい内容になったと評価していただきました。
この経験で改めて感じたのは、研修後に何を確かめたいのかが明確になれば、研修の内容そのものも、そこに向けて磨き込めるということです。
研修の効果測定は、研修が終わってから考えるものではなく、企画段階から始まっているのだと思います。
研修体系の見直しでつまずきやすいのは、次の3つです。
1.研修の一覧表を整えて終わる
研修を階層やテーマごとにきれいに並べ直しても、それぞれの研修の目的や職場での実践が変わらなければ、
十分な見直しとは言えません。
一覧表は、見直しの結果を表すものです。
一覧表を作ること自体が目的にならないようにしたいものです。
2.新しい研修を足すだけで、やめる研修を決めない
新しい課題が出るたびに研修を追加すると、受講者と職場の負担が増え続けます。
何を追加するかだけでなく、何をやめるか、何を統合するか。
その判断も必要です。
3.研修担当者だけで進める
研修体系は、人事・研修担当者だけで完結するものではありません。
研修で学んだことを職場で実践するには、上司や周囲の協力が必要です。
見直しの段階から管理職や現場の声を取り入れることで、研修が「人事部門のもの」ではなく、「組織全体で人を育てる仕組み」に近づいていきます。
目指す人材像から逆算して研修を組み立てるという考え方は、自治体でも企業でも共通しています。
ただし、手がかりとなる方針や、考慮すべき事情には違いがあります。
自治体の場合
各団体が定める人材育成基本方針が、見直しの重要な軸になります。
定期的な人事異動で職員の担当業務が変わることも踏まえ、全庁で実施する研修と、各職場で行う育成の役割分担を整理することが大切です。
また、研修体系を見直す際には、人事評価やキャリア形成支援などとのつながりも考える必要があります。
企業の場合
経営計画や事業戦略、人事制度との結びつきが重要になります。
例えば、事業環境の変化に対応するために、今後どのような能力を持つ人材が必要なのか。
そのために、どの階層や職種の育成を優先すべきなのか。
研修を経営課題と切り離さずに考えることが求められます。
Q.研修体系の見直しには、どのくらいの期間がかかりますか?
組織の規模や見直しの範囲によって異なります。
次年度の研修計画に反映する場合は、予算や計画を確定する時期から逆算して着手する必要があります。
体系全体を一度に変えることが難しい場合は、優先度の高い階層やテーマから段階的に進める方法もあります。
Q.研修担当者が少人数でも、見直しはできますか?
できます。
最初からすべての研修を見直そうとせず、まず目指す人材像と現状の課題を整理し、対象を絞り込むことが大切です。
また、管理職や職場の協力を得ることで、研修担当者だけに負担が集中することを避けられます。
Q.外部の専門家に相談した方がよいのは、どんなときですか?
目指す人材像が十分に言語化されていない場合、関係部署との調整が難しい場合、研修の効果を確かめる仕組みがない場合などは、外部の視点が役立つことがあります。
一方で、今回紹介した5つのステップに沿って、自組織で進められることも少なくありません。
まずは現状の棚卸しから始め、課題の整理や設計に難しさを感じた段階で相談するという進め方もよいと思います。
研修体系の見直しは、研修の種類を増減したり、一覧表を作り直したりすることだけではありません。
大切なのは、次の5つのステップを通じて、組織が目指す人材像と、実際の育成施策をつなぎ直すことです。
研修は、人が育ち、組織が良くなるための手段の一つです。
だからこそ、研修の内容だけでなく、研修前後の働きかけや職場での実践まで含めて考えることが重要だと思っています。
皆さんの組織では、現在の研修体系が、目指す人材像とどのようにつながっているでしょうか。
次年度の研修計画を考えるこの時期に、一度、そんな視点から見直してみてはいかがでしょうか。
株式会社アイル・キャリアでは、企業・自治体の人事・研修担当者の方と、研修の目的や背景にある課題を整理するところからご一緒しています。
「毎年実施している研修を、このまま続けてよいのか」
「人材育成方針と研修体系を、どうつなげればよいのか」
「研修で学んだことを、職場での実践につなげたい」
こうしたご相談に対して、現行研修の棚卸しや課題の整理、研修前後の設計など、必要な取組を一緒に考えます。
研修の実施を前提とせず、まずは課題を整理する段階からご相談いただけます。
株式会社アイル・キャリア代表取締役。
2006年の創業以来、企業・自治体の人材育成に携わり、研修・人材開発の現場に立ち続けています。
自身も一つの研修との出会いによって人生が大きく変わった経験から、
「人には可能性がある」ことを人材育成の原点としてきました。
20年間の実践を通じてたどり着いたのは、学びを一過性のものにせず、
人と組織が変わり続けるためには、意志や熱意だけではなく「仕組み」が必要であるという考えです。
現在は、AI時代だからこそ大切にしたい人間らしさと、
一人ひとりの持ち味や可能性を活かす人材開発を追究しています。