ビジョン達成に向けた考え方と策定手順は、企業の成長にとって不可欠なものです。この記事では、ビジョンを策定し、それを実現するための具体的な方法と、有名企業のビジョン設定事例を挙げて解説します。戦略的なビジョン策定が、企業の未来をどのように変えるか、そのポイントを押さえましょう。
ビジョンとは自社、自部門あるいは自チームとして中長期的に目指すべき将来の方向性や実現したい未来の姿を明文化したものです。言い換えると、企業や組織が果たすべき役割や存在意義を表す「ミッション」を実現した状態のことを指します。
ビジョンと共によく使われる言葉は下記の4つです。
下記の表を使って、それぞれの言葉の意味を確認しましょう。
言葉 | 定義・意味 |
ミッション | 日本語で「企業理念」や「社是」という意味を持ち、企業や組織が果たすべき役割や存在意義のことを指す。 |
バリュー | 日本語で「価値」や「価値基準」を意味する。ミッションやビジョンと比較するとより具体的な価値基準になるため、メンバーの行動基準になることが多い。企業や組織が大切にする価値観を、社員が理解して具体的にイメージできることで、その実現に向けて行動を起こしやすくなる。 |
経営理念 | 経営理念は経営者の哲学や信念に基づいて、企業の根本となる活動方針を明文化したもの。 例)Googleの経営理念 「ユーザーにフォーカスすれば別の人もついてくる」 「スーツを着ていなくても仕事はできる」 「スピードが速いことは遅いことよりも良い」 「1つのことを最大限に行うことがベストな道である」 |
パーパス | パーパスは「目的」を意味する言葉で、ミッションに近い言葉であるが、ミッションよりもさらに「社会的な貢献」を意識している点が異なる。 |
それぞれの言葉の意味を理解し、正しく使い分けられるようにしましょう。
ビジョンが必要とされている理由は主に2つあり、下記の通りです。
組織や社内にはさまざまな価値観を持ったメンバーが所属し、それぞれが別々のキャリアプランを描きながら働いています。目指す姿が提示されないと、目の前の短期的な目標達成だけを意識した働き方になってしまうでしょう。
人は「こうならなければいけない」「こうしなくてはいけない」といった義務感だけで継続的に成果を上げることはできません。チームとして目指すべき姿、「ビジョン」を提示してメンバーが向かう方向性を定めることで、メンバーのモチベーションを向上させ、成長を促進することにつながるのです。
数値目標だけを設定すると、「目標となる数値を達成しておけば良い」「数値につながるかどうかだけ考えれば良い」という考えに陥りがちです。このような考えが社内や組織内に浸透すると、クライアントとの関係性が弱まったり、主力商品やサービスの利益率が低下したりといったリスクが生じることがあります。
「なぜこのような目標数値が設定されているのか」「どうやって達成するべきか」といった行動指針を判断する基準としてビジョンを設定することで、これらのリスクを回避することにつながるでしょう。
次に、ビジョンを達成するために必要なポイントについて解説します。
ビジョンを策定する際には、内容はシンプル、かつ分かりやすくすることがポイントです。ビジョンは社員が理解できないと意味がありません。難解な横文字や専門用語などは使わず、誰でも理解できるような内容にしてください。また、読む人によって解釈が異なるような言葉や用語も使用しないようにしましょう。
シンプルかつ分かりやすい内容にするのに加えて、実現可能なものであることが大切です。あまりにも現実離れしていたり、実現が難しいと感じられるような内容だったりすると、社員を含めたステークホルダーの賛同を得ることは難しくなるでしょう。
ビジョンを作成する際には、トップダウンで社員に押し付けてはなりません。トップダウンで社員に押し付けてしまうと、「社長が勝手に作った」と捉えられて賛同を得ることができず、名ばかりのビジョンになってしまう可能性があるからです。
できるだけ多くの社員にコミットしてもらうことを心がけましょう。社員の協力を得るためには、経営者から社員に参加を促すような働きかけをすることが大切です。
社員を巻き込んでビジョンを定めたら、意思決定をスピーディーに行っていきましょう。達成すべき目標が見えているため、意思決定は比較的容易なはずです。意思決定のスピードを上げるためには、ビジョン達成のために「何をするべきか」「何をすべきでないか」を明確にして物事の優先順位を立てることが大切です。ビジョンの達成をできるだけスケジュール通りに進めましょう。
次に、ビジョンに沿って未来予測の行動をとります。ビジョンが決まっていれば、そのためにやるべきことが細分化できるはずです。業務フローを全体的に見直すケースも出てくるかもしれませんが、ビジョンに沿った先回りした行動がないとビジョンの達成は難しいため、ぜひトライしていきましょう。
ビジョンが達成されない場合は、下記の原因が考えられます。
ビジョンが達成されない場合は、原因を把握し、再度ビジョンを見直すことが大切です。上記にもありますが、ビジョンを達成するためには、社員に「自分ごと」であると捉えてもらう必要があります。くれぐれも社員抜きでビジョンを考えたり、トップダウンで押しつけたりすることがないように気をつけましょう。
ビジョンが決定したら、社員にビジョンを浸透させるための活動を行っていきましょう。繰り返しになりますが、ビジョンを達成するためには、社員の理解と納得が必要不可欠だからです。「なぜこのビジョンなのか」「どのような経緯でこのようなビジョンになったのか」といった細かい点も含めて、繰り返し、繰り返し、何度も社員に説明するようにしてください。
ビジョン策定にあたっては、下記4つのステップを踏んでいきましょう。
まずは、自分自身に下記のような質問を問いかけ、現在の自社事業を正しく把握しましょう。
「あなたの会社は、誰にどのような商品・サービスを提供し、どのような価値をもたらしているのか?」
「あなたがターゲットとする顧客層はどのような人々で、何に対していくらの対価を支払ってくれているのか?」
これらを考えることで、今後進むべき方向性や未来の姿をより具体的にイメージできるようになるでしょう。
次に、自社を取り巻く市場や直接的な競合の現状、今後の成長性などについて把握します。この際、客観性を保つことが重要となるため、財務諸表やIR資料などの公開資料や市場調査会社のレポートなどを活用することがおすすめです。
そして、売上高や自社の強みや弱みをベースにポジショニングマップを作っていきましょう。今後の成長性については、競合を含めた市場全体の現状を把握しながら、今後の事業環境などを踏まえて予想しましょう。
経営陣だけでなく社員も含めて全社で、「仕事をする目的」について話し合う場も必要となります。仕事の目的には、下記のようにさまざまなものが挙げられるでしょう。
話し合いを進める中で、会社の歴史や文化など会社のレガシーとなる情報を全社員に共有することがポイントです。その上で、社員1人ひとりが何を大切にしているのか、何を守っていきたいのかといった考えを率直に話し合います。議論を繰り返しているうちに、共通となる価値観が見えてくるでしょう。この共通の価値観こそが、ビジョン策定には、とても重要となります。
下記3つについて考えたことや話し合ったことをもとに、会社のあるべき姿をイメージしましょう。変化が激しい今の時代には難しいことだと思いますが、出来れば、5年後や10年後のイメージが共有できると良いでしょう。
例として、以下のように事業計画などと照らし合わせた具体的なイメージを描きましょう。
最後に、下記3社のビジョンの事例を紹介します。
キャノンマーケティングジャパン株式会社では、「社会・お客さまの課題をICTと人の力で解決するプロフェッショナルな企業グループ」を2025年のビジョンとして定めています。
このビジョンを実現するための基本方針は4つあり、下記の通りです。
キャノン株式会社の経営ビジョンについてさらに詳しく知りたい人はこちら
KDDI株式会社は、経営ビジョンと中期経営戦略を分けて掲げている点が特徴的ですが、経営ビジョンをベースに中期経営戦略を策定しています。2022年に掲げた経営ビジョン「KDDI VISION 2030」は「『つなぐチカラ』を進化させ、誰もが思いを実現できる社会を作る」です。
KDDI株式会社の経営ビジョンについてさらに詳しく知りたい人はこちら
株式会社ファーストリテイリングでは、「服のチカラを、社会のチカラに。」を経営ビジョンのサステナビリティステートメントとして掲げています。また、「People(人)」、「Planet(地球環境)」、「Community(地域社会)」3つのテーマに、下記の6つの重点領域を特定しています。
株式会社ファーストリテイリングの経営ビジョンについてさらに詳しく知りたい人はこちら
ビジョンを達成するためには、明確な目標設定と具体的な行動計画が必要です。ビジョンの策定にあたっては、社員が一丸となって議論し、共に会社の価値観を明確にしながら創り上げていくことが大切です。この記事で紹介した方法と事例を参考に、自社に合ったビジョンの策定とビジョン達成に必要な思考法と手順を理解し、自社の成長戦略に活かしましょう。
株式会社アイルキャリアは、お客様ごとに抱える課題や目標に合わせたオーダーメイドプログラムで”学び”を提供する研修会社です。官公庁・自治体から上場企業、医療法人や学校法人まで様々なお客様に対して、ご要望と時流をふまえた必要な”学び”を、新人から管理職まで幅広く提供し、組織の人材育成を支援しております。特徴としては、その研修で達成したい目標(行動変容)の先にある成果、パフォーマンス(行動変容の結果得らえるもの)までを意識してプログラムを作成することにあります。