目標設定するように伝えても、なかなか期待した回答が得られない、とお悩みの上司は多いのではないでしょうか。日常の仕事における目標設定は、組織から考えた時、人材育成の観点から重要であることはもちろんのことですが、従業員個人の成長にとっても必要不可欠です。この記事では、目標設定の目的や意義、目標設定に必要なポイントや活用できるフレームワーク、職種別の目標設定の例などについて詳しく解説します。
目標設定とは、最終的に成し遂げたい目的を実現するために「何を」「いつまでに」「どのような方法で行うか」について洗い出し、上司と部下の間、あるいは組織内で管理することです。「業界シェアNo.1を獲得する」「新商品を開発して売上高1億円を達成する」といったものが例として挙げられます。一般的に、仕事における目標は下記3つあり、段階的に落とし込んでいくことが必要です。
会社や部署が立てた目標から逆算しながら、個人の目標を設定します。
目標設定には、下記4つのメリットがあります。
仕事をする上でモチベーションの維持は大切なことです。「上司に言われたから」「仕方なく」といった気持ちで仕事をしていてもモチベーションは上がりません。最後まで責任を持って業務をやり遂げようとする気持ち、あるいは結果を出そうとする意欲がないまま仕事をすると、従業員の成長はもちろん、組織の成長にも結びつかないでしょう。
従業員が自ら目標設定を行うようになれば、主体的に業務に取り組むようになります。結果、仕事に対するモチベーションも維持され、想定外のことが発生しても前向きに解決しようとするものです。目標設定は、従業員本人にとっても、組織にとっても良い結果をもたらすことになるでしょう。
目標を設定することで達成までの道筋が明確になります。道筋が明確になると、今何をやるべきかが分かり、行動にブレがなくなるでしょう。つまり、時間や労力を無駄にすることも少なくなります。
自分自身で決めたことや行動の積み重ねによって目標達成に近づいていることを実感できれば、自信や達成感が得られるでしょう。自分の考え方や行動に自信が持てれば、さまざまな物事を前向きに捉えられるようになります。また、自信を持って物事に取り組むことで目標達成の可能性も高まることが期待できるでしょう。
一つの目標が達成できたら何がしかのご褒美を与え、再び新しい目標を設定して達成したくなる、そういったポジティブな循環を生み出せることにも繋がります。
目標設定は、それを達成するためのゴールと道筋を決めるため、なりたい将来像がクリアに見えてくる効果も考えられます。設定時には、いつどのようなポジション、仕事を経験するかだけでなく、どのようなライフスタイルを送るかも考えるようにします。
大まかであっても「いつ」「何をやるべきか」といった目印があれば、それを頼りにブレずに適切な行動をとれるようになるはずです。
目標設定は、2種類あります。
発生型目標とは、組織の中ですでに発生している課題を解決し、平常時に戻すことを目指すための目標のことをいいます。例として、以下のようなものが挙げられます。
設定型目標とは、もともと明確な基準値が存在しない、あるいは、設定した基準値を現時点ですでに超えており、さらなる高みを目指すために設定する目標のことをいいます。「年内にプロジェクトの全工程を完了させることが目標だが、現状のペースでいけば、1ヶ月前に前倒しして完了させる」といった具合です。
目標設定を上手に行うためには、下記7点に留意しましょう。
上記にもありますが、仕事における目標は、以下3種類です。
従業員が所属する会社で仕事の目標を設定する場合、会社や部署の目標と連動した目標を設定するようにしましょう。そうすることによって、自分の努力や成果も適性に評価されるようになりますし、それが、さらなるやる気を生むことにも繋がます。つまり、所属する会社で仕事の目標を設定する場合は、独りよがりな目標設定にならないよう注意することが必要だということです。
目標設定の具体的方法論の1つとして、以下3つの切り口から考え、内容が重なり合う部分を見つけるのが望ましいとされています。
変化の激しい今の時代、目標を設定する際は、将来自分を取り巻く環境が大きく変化することも想定しておく必要があります。そのような心構えを持っておくことで、実際に、環境が変化した時でも想定内と受け止め、柔軟に適応できるようになるからです。
目標設定の基準の1つとして、努力すれば達成できるようなレベルに設定するという考え方があります。なぜなら、そのような目標を実際に達成することができれば、仕事に対しての自信が増すと同時に、自己成長感も味わうことができるからです。
一般的に良い目標とは、「易しすぎず、難しすぎず、届くか届かないかというレベル」と言われています。あくまでもイメージとしてですが、現在の能力を100%とした場合、120%の力で到達できるレベルという感じです。
従業員が、今の自分を客観的に評価し、自ら適切な目標を設定することは難しいものです。そのような場合、1つの案として、上司や役員が現場の社員だった時に出した結果やアウトプットを公開することが役立つことがあります。こういった具体的な基準や目安といったものは、目標設定を容易にすることが多々あります。
そして、以下のように、設定した目標が妥当なものであるかどうかを相談したり、参考となる情報を確認できたりする場を設けることも大切です。
目標達成の第一歩は、しっかり現状を分析することです。今の時代であれば、ITツールなどを活用すれば、日々のデータ分析を効率的に行うことができます。営業組織の場合は、CRMやSFAツールなどを活用して顧客情報や商談情報を一元管理して可視化することで、より現実味のある目標設定が可能になるでしょう。
以下、目標の設定時に役立つフレームワークを紹介します。
「SMART」とは下記5つの英単語の頭文字を取ったものをいいます。目標は、これらのポイントに留意しながら設定することで、実現可能性が高まるとされています。
では、それぞれの要素について詳しく解説します。
Specific(具体的である)
“S”は”Specific”を表し、「具体的であること」を意味します。以下には、よくある具体性に欠けた悪い目標例をあげます。
上記のような目標では、行動計画の作成も評価軸の設定も困難です。下記のように数値を含めた目標を設定することで、目標の達成状況を客観的、かつ公平に評価できるようになります。
目標が具体的であればあるほど、達成に必要なステップをイメージできるようになります。
Measurable(数値で目標を設定している)
”M”は”Measurable”を表し、「数値で目標を設定している」「測定可能である」ことを意味します。設定した目標を達成するためには、マイルストーンの設定が有効となります。最終的な目標に対して、今自分は、どのあたりにいるのかを把握するため、数値で測定できる目標を設定することが望ましいのです。たとえば、「部下とコミュニケーションを取る時間を増やす」という目標を測定可能な目標に変えると、「週1回、最低30分の面談を実施して、部下とのコミュニケーションの時間を増やす」といった感じです。
Achievable(実現可能である)
“A”は”Achievable”の”A”で「実現可能である」ことを意味します。目標は、高い目標が必ずしも良いとは限りません。高すぎる目標を設定すると、行動計画も立てられず、目標の達成が困難になってしまう可能性が高まります。極端な例ですが、「マーケティングの知識を身につけるために毎日10冊の本を読む」という目標は、実現不可能な目標です。実現性がある目標は、モチベーションや集中力を維持しやすくなります。目標を設定したら、その実現性について客観視してみてください。
Relevant(関連性がある)
”R”は”Relevance”「関連性がある」という意味です。設定した目標が、自分の価値観や最終的な目的に「関連性がある」と感じられるかどうか検討する必要があります。なぜなら、人は、自分の価値観に合ったことをしている時にやりがいを感じ、能力を解放するからです。最終的に、自分は何を目指したいのかということをハッキリさせた上で、関連性がある目標を設定し、達成に向けた行動計画を立てるようにしましょう。
Time-bound(期限が明確である)
最後の”T”は”Time-based”の頭文字で「期限が明確であること」を意味します。目標を設定する際は、いつまで達成したいのか期限を明確に設定しましょう。期限を明確にすると意識もエネルギーも注げるようになります。達成に向けてのモチベーションも高まります。また、迷いも消えて、今何をすべきで、何をしないのかといった選択、意思決定の質も高まっていくでしょう。
ベーシック法とは、下記4つのステップで構成される最も基本的な目標設定の方法です。
ここでは、それぞれのステップについて詳しく解説します。
目標項目を設定する
まずは、下記4つの中から達成したい項目を1つ選びます。
目標とする項目は複数選ぶよりも1つだけに絞ることがおすすめです。達成するまでのプロセスに集中しやすくなります。
目標達成基準を設定する
次に、何をもって目標を達成したとするか、事前に基準を定めます。基準はできる限り数値化するようにしましょう。達成したかどうかを判断しやすくなります。
目標期日と目標達成までの計画を決める
いつまでに達成するか、目標の期限・期日を決定し、達成するまでのプロセスをイメージして定めてください。この際、目標を達成するために必要なツール、ソフト、そして工程ごとのスケジュールといった詳細まで設定することが大切です。
次に、三点セット法を活用した目標設定について紹介します。これはベーシック法をさらに掘り下げたもので、下記のステップを踏みながら目標を設定します。
それぞれのステップについて詳しく見ていきましょう。
テーマを設定する
まずは目標のテーマ「何を達成したいのか」を決めます。この段階では目標は曖昧で漠然としたもので問題ありません。この後のステップでどんどん具体的な目標にブラッシュアップしていきます。どうしても目標のテーマが見つからない場合は、下記3つの方法を試してみてください。
安正早楽(あん・せい・そう・らく)とは「より安く、より正しく、より早く、より楽に」の頭文字を取った用語で、すべての業務はこのように行われるべきであるといった理想を示しています。
この用語をベースに下記のような視点で考えると、目標を立てやすくなるでしょう。
次に、自己否定とは、「もし〜ではなかったら」という仮定から、目標となるテーマを具体的なものにしていく方法です。自分自身が抱えている問題について仮定し、それを深掘りすることで本質的に改善すべきことが見えてきます。
たとえば、進捗が遅れているプロジェクトについて「もし自分が原因でプロジェクトがスケジュール通りに進まなかったら」と問いかけるとしましょう。「取引先に迷惑をかけて、会社の業績にも悪影響を及ぼす」→「プロジェクトが遅れている原因を洗い出して対策を立てた上で、プロジェクトの進捗管理を厳密に行う」といった具体的な目標を立てられるようになります。
次に、プロセスチェックとは、自身の日々の業務フローの中から改善すべき点を見つけて目標テーマを設定する方法です。まずは、「こんなことをしたい」という大きな願望を1つ決めましょう。その願望に関連した自分の行動フローを洗い出してください。そのフローの中から改善すべき点を見つけ出しテーマとして定めましょう。
たとえば、「新規顧客を増やしたい」という願望を設定した場合、自分が行う新規顧客を開拓するための営業フローをすべて洗い出します。「リストを作成する」「テレアポする」といったフローなどが出てくるはずです。その中から、最も改善すべき点を挙げて目標として設定するといった流れです
達成レベルを設定する
達成レベルとは、事前に設定したテーマに到達できたかどうかを判断するための指標のことです。数値など具体的なレベルを設定することをおすすめしますが、「〜をゼロにする」や「〜を100%達成する」といった極端なものにしてしまうと目標の達成が難しくなってしまいます。少し努力すれば達成できるような実現可能なレベルを設定してください。また、数値で設定するのが難しい場合は、「〜という状態になる」や「〜までに達成する」など「状態」を基準にすれば具体性を保つことができます。
達成手段を設定する
達成手段とは、目標を達成するための行動を表します。
前のステップで「達成レベル」を決めましたが、そのレベルに到達するために何をするべきか具体的に設定してください。ここでポイントなのが「何をすれば良いのかが明確である」ということです。行動計画が曖昧で分かりづらいと「結局、何をすれば良いのかわからない」という状態になってしまい、目標達成どころか行動に移すことすらできなくなってしまいます。具体的にどのような行動をすべきかが明確になるまで掘り下げて考えてください。
「これまでのやり方を変える」「今だからできる」といった視点で考えると具体的な行動計画が考えやすくなるでしょう。
それでは最後に、職種別に目標設定の事例を紹介します。
営業職は数値目標が立てやすい職種です。所属している部署やチーム全体の売り上げ目標や新規顧客獲得件数などの目標に対して、自分の担当や割合に合わせた目標を設定しましょう。
たとえば、下記の目標設定事例を参考にしてください。
ここでの企画職とは営業職が販売している商品を開発したり、販売促進計画を立てたりする部署のことを指します。営業職と密接に連携する部署であることから、営業成績と連動するような目標を設定することをおすすめします。
下記の目標設定事例を参考にしてください。
技術職の人が目標設定をする際には、「会社から何を求められているのか」を把握することが大切です。納期厳守や品質向上など期待される内容によって設定する目標の内容が変わります。
下記の目標設定事例を参考にしてください。
管理部門職は、上記3つの職種と比較すると数値目標が立てづらい職種です。現在取り組んでいる業務の効率化や、新しい制度導入に対する目標を立てることをおすすめします。
下記の目標設定事例を参考にしてください。
ビジネスでの目標設定は、設定する目標の内容次第で社員のモチベーションを向上させます。社員自身が掲げた目標を達成すれば、社員だけでなく企業の成長にもつながります。今回解説した目標設定に活用できるフレームワークを始め、目標設定に必要なポイントをしっかりと押さえれば、従業員自身の成長につながる目標設定ができるでしょう。
株式会社アイルキャリアは、お客様ごとに抱える課題や目標に合わせたオーダーメイドプログラムで”学び”を提供する研修会社です。官公庁・自治体から上場企業、医療法人や学校法人まで様々なお客様に対して、ご要望と時流をふまえた必要な”学び”を、新人から管理職まで幅広く提供し、組織の人材育成を支援しております。特徴としては、その研修で達成したい目標(行動変容)の先にある成果、パフォーマンス(行動変容の結果得らえるもの)までを意識してプログラムを作成することにあります。