近年、多くの企業が働き方改革に取り組んでいます。しかし、改革すべきポイントが多岐に渡るため、難航している企業も多いのではないでしょうか。労働環境や働き方の見直しを行っても、成功するどころか、反対に生産性や従業員のモチベーション低下などの問題が生じる場合もあります。
本記事では、働き方改革の概要と具体的な取り組み、働き方改革を推進する上で起こり得る問題と課題について紹介します。
「働き方改革関連法案」が2018年6月に成立し、2019年4月に施行されました。働き手の間でも「働き方改革」という言葉が定着するようになり、身近に感じる人も多いのではないでしょうか。最近では出社せずに自宅や遠隔地で働く「テレワーク」という働き方も浸透し、「働き方改革」の恩恵を受けている人もいることでしょう。
ここでは、「働き方改革」について、以下2つをご紹介します。
現在の日本における大きな課題の一つとして「少子高齢化」が挙げられます。日本は1980年代半ばから出生率が低下し、1990年代になってさらに急速に「少子高齢化」が進みました。そのため、本来であれば支える側であった若者世代の人口が少なく、高齢者の仕事を引き継ぐ人がおらず、定年を迎えても再雇用という形で働いている人も多くいます。
また、働き方も一昔前は「女性は家で家事、男性は外で仕事」が主流で、男性は家庭より仕事を優先し残業や接待などで仕事一色という考え方が一般的でした。しかし、時代の変化により女性が外で働くことが増えたほか、問題視されていた長時間労働も見直されるようになりました。そして、今ではプライベートと仕事の調和のとれた「ワークライフバランス」を意識した働き方が理想とされています。
時代の変化により働き方が変化し「ワークライフバランス」が求められるようになりました。「働き方改革」では働き手が多様な働き方の中から自身にあったものを選択し、より良い生活を送ることを目的とされています。そのためには、企業側は働き手の意見を聞きつつ制度を導入し、多様な働き方を受け入れやすい環境をつくることも重要です。
ここでは、働き方改革の3つの柱をご紹介します。
一昔前は残業や接待などで長時間労働が当たり前の時代でした。驚くことに長時間労働を美徳とする風潮があったのも特徴の1つです。長時間働き続けると心身ともに疲れが溜まり、疲れが取れにくくもなってしまいます。せっかくの休みでも寝て過ごしてしまい、プライベートの時間で上手にリフレッシュできなくなってしまうでしょう。長時間労働が改善されると「ワークライフバランス」が保て、仕事とプライベートの両立を図りやすくなります。
雇用形態には、正社員や契約社員、派遣社員、パート・アルバイト、業務委託などがあり、それぞれ待遇が異なります。その中でも分かりやすいのは、ボーナスの有無や福利厚生の違いが挙げられます。この差が労働意欲低下につながり、生産性の低下にも直結します。そのため、雇用形態による格差を解消し、その差を解消することで労働意欲や生産性の向上を果たして行く必要があります。非正規雇用でも優秀な人材には、適切に評価し正規雇用へ転換するなどして、人材の流出を防ぎましょう。
多様で柔軟な働き方を実現する中で、代表的なものとして「高度プロフェッショナル制度」が挙げられます。通常、労働基準法に準拠した働き方をする必要がありますが、高度プロフェッショナル制度では、労働基準法の規定を適用しない働き方が可能になります。もちろん、誰でも高度プロフェッショナル制度を利用できるわけではありません。高度プロフェッショナル制度は下記の条件に該当する人が制度を利用できます。
高度プロフェッショナル制度が利用できる職種には、「金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発業務」や「新たな技術、商品又は役務の研究開発の業務」などがあります。
ここでは、働き方改革の具体的な取り組み内容を4つご紹介します。
取り組みを見直すことでより働きやすい職場を実現できる可能性がありますので、ご自身の職場で取り入れられるものがないか確認してみましょう。
長時間労働や時間外労働を長期的に行うことは、身体的にも精神的にも危険が伴います。疲労の蓄積により正常な判断がつかなくなり、過労死という最悪の事態にも陥りかねません。それを避けるためには、「人員の増員」や「属人化している業務をなくし担当者の負担を減らすこと」が有効です。また、闇雲に増員するのではなく、その前に仕事を効率化する手段がないかを検討することも大事になってきます。仕事を効率化することで慢性的な人員不足にも対応でき、担当者のスキルアップにもつながるでしょう。スキルアップすれば働く意欲も湧きやすくなります。働く意欲が湧くと生産性も向上して離職率も下がり、企業としても働き手としてもWin-Winな好循環が生まれます。
働き方改革の具体的な取り組み内容の2つ目は「多様な働き方の実現」です。ここでは、さらに細分化し3つをご紹介します。
フレックスタイム制度
多様な働き方の実現の1つ目は「フレックスタイム制度」です。通常の働き方では勤務時間が固定されており、それを超えて働く場合は残業という扱いになります。一方、フレックスタイム制度は、一般的にコアタイムと呼ばれる時間が設けられているケースがほとんどです。コアタイムの勤務は必須ですが、コアタイム以外の時間は任意で働くことができます。例えば、コアタイムが11:00~16:00で勤務時間が8時間だった場合、休憩時間を1時間加えて「7:00~16:00」や「11:00~20:00」、「9:00~18:00」などの勤務時間を選択可能です。部署ごとで細かなルールは設ける必要が出てきますが、基本的には任意の時間で働けるため、労働時間制よりも自由度が高い働き方と言えるでしょう。
テレワーク
多様な働き方の実現の2つ目は「テレワーク」です。テレワークとは、tele(離れた場所)とwork(働く)を組み合わせた造語です。テレワークを取り入れることで、自宅やオフィス以外の場所で働けるようになります。基本的には、インターネット環境でパソコンやタブレットなどのデバイスを利用して業務を行います。テレワークのメリットとしては、通勤時間が不要で時間を有効的に使えるという点があります。デメリットとしては、他のメンバーと顔を合わせずに業務を進めることで、オフィスで仕事をしていたときよりも、コミュニケーションが取りづらくなってしまう点が挙げられます。
また、企業側としては、セキュリティ面やデバイスの確保、各従業員の業務の進行管理が課題になります。
時短勤務制度
多様な働き方の実現の3つ目は「時短勤務制度」です。「時短勤務制度」は、その名のとおり勤務時間が短い働き方で、従来の利用者は主に出産後に職場へ復帰した女性が多いという特徴がありました。しかし、2022年4月に育児・介護休業法が実施され、育児や介護を必要とする場合、男女に限らず利用できるようになりました。「時短勤務制度」のメリットとしては、プライベートの時間に余裕が生まれるという点が挙げられます。一方、勤務時間が短い分給料が少なくなるというデメリットがあります。また、「時短勤務制度」を利用していない従業員の理解も必要不可欠です。その理解がない状態で制度の利用を促すと、不平不満がたまり離職者が増えることも考えられます。
正社員と非正規社員では、同じ業務を担当していても待遇に格差があることで、労働意欲や生産性が上がらないという問題点がありました。この待遇格差を解消することで、非正規社員でも労働意欲や生産性が向上し、優秀な人材の流出を防ぐことができます。ここでは、さらに細分化し2つをご紹介します。
パートタイム・有期雇用労働法の改正
パートタイム・有期雇用労働法は、正社員とパートタイムや有期雇用労働者の待遇差をなくし「同一労働同一賃金」を目指して2020年4月に施行され、2021年4月からは中小企業にも適用されました。また、正社員の中でも時短勤務の正社員と通常のフルタイムで働く正社員の間での待遇格差が禁止されています。待遇格差の解消以外にも、企業はパートタイム労働者・有期雇用労働者が正社員との待遇差について聞かれた場合、説明義務が発生します
派遣法の改正
2020年4月に労働者派遣法が改正・施行され、2021年4月より中小企業にも派遣社員の同一労働同一賃金が適用されるようになりました。そのため、パートタイム・有期雇用労働者と同様に正社員との待遇差について聞かれた場合、説明義務が発生します。さらに、派遣社員の雇用主である派遣元企業は、雇用する際に「派遣先均等・均衡方式」と「労使協定方式」のどちらかを用いて待遇を決定することが義務化されました。「派遣先均等・均衡方式」は、派遣先企業の同じ業務をおこなう正社員とスキルや経験に差がある場合、その差を考慮して待遇差を設けることが可能です。「労使協定方式」は、派遣先企業には関係なく派遣元企業が労使協定を締結し、同じ業務をおこなう一般労働者の賃金水準より高く設定しなければなりません。
企業側は働き手に寄り添い、人材を育成し研修などを用いて支援することで労働意欲や生産性の向上が見込めます。働き手としても、スキルアップすることで給料アップにもつながります。人材育成や支援をおこなう際のポイントは3つです。
まず、企業の課題を把握するために、SWOT分析などのフレームワークを用いて課題を可視化します。可視化することで自身が企業の成長のためにどういう行動が必要なのかが明確になります。そして、従業員の強みや活かせる知識を把握し、さらなる人材育成に役立てたり、活躍できる場を与えたりして労働意欲を向上させましょう。最後に、課題に対する実行可能な目標を立てられるようにアドバイスして、自主的に行動に移せるようにサポートすると良いでしょう。場合によっては、スキルアップのための研修を受けることをおすすめします。
ここでは、働き方改革を推進する上で生じる問題・課題を「企業側」と「従業員側」の目線でご紹介します。「働き方改革」を進める上で導入を検討すべき制度は、どれもすぐに取り入れられるものばかりではありません。中には社内の規定やルールを変更したり、従業員の業務手順を見直したりする必要があります。
まず、企業側の問題・課題としては4つ挙げられます。
制度を導入する際には、就業規則と社内規程の見直しと変更が必要であり、それぞれ相応の時間を要します。また、これまでの業務を新たなツールを導入して効率化する場合は、移行そのものに時間がかかる場合も多いでしょう。しかし、一番の懸念点は苦労して制度を導入しても働き手に浸透せず、結果的に「働き方改革」が推進されないことです。せっかく手間と労力をかけて制度を導入しても浸透しないと意味がないため、制度導入後は説明会などを開いて制度の内容やメリットを従業員に知ってもらう必要があります。
従業員側の問題・課題としては2つが挙げられます。
制度導入により、通常業務に加えて新たな業務が発生する部署もあり、一時的に残業が増えることも珍しくありません。また、「働き方改革」により業務の効率化をした結果、残業が減る従業員も出てきます。中には残業代が減ってしまうことが、モチベーションの低下につながる従業員もいるでしょう。ほかにも、制度を利用したくても部内の同僚の理解がないことが原因で利用できないことも想定できます。そうなると、制度が形だけ存在する状態になり、期待していた従業員は働く意欲がなくなってしまうでしょう。
今回は「働き方改革」についてご紹介しました。働き方改革を推進・課題解決に重要なポイントは2つあります。
まず、企業側と従業員側が協力して体制を強化することが重要です。企業側である経営陣の意向も重要ですが、同じくらい実際に業務に取り組んで制度を利用する従業員の声も重要です。従業員の声も取り入れながら導入を進めることで、制度が浸透しやすくなるでしょう。また、制度を導入したら終わりではありません。働き方が多様化している時代だからこそ、定期的に修正と改善を行い、従業員にとって理想的な制度に整備する必要があります。目的を忘れずに「働き方改革」を進め、企業にとっても従業員にとってもよりよい環境を構築していきましょう。
株式会社アイルキャリアは、お客様ごとに抱える課題や目標に合わせたオーダーメイドプログラムで”学び”を提供する研修会社です。官公庁・自治体から上場企業、医療法人や学校法人まで様々なお客様に対して、ご要望と時流をふまえた必要な”学び”を、新人から管理職まで幅広く提供し、組織の人材育成を支援しております。特徴としては、その研修で達成したい目標(行動変容)の先にある成果、パフォーマンス(行動変容の結果得らえるもの)までを意識してプログラムを作成することにあります。