変化の激しいVUCA時代、企業が競争優位性を維持するには「人材の戦略的活用」が欠かせません。
そこで今、人事部門が経営に深く関与する「戦略人事」が注目されています。
本記事では、成功企業の戦略人事の事例10選を紹介し、実践に役立つ具体的な実行ステップを解説します。
自社に適した戦略を見つけ、企業成長を加速させましょう!
戦略人事とは、企業の経営戦略を実現するための人材マネジメント手法です。
1990年代にアメリカの経済学者デイビッド・ウルリッチが提唱し、世界中の企業で導入が進みました。
従来の人事は、労務管理や人事制度の整備を通じて現場の業務を円滑に進める役割が中心でした。
しかし、戦略人事では「経営視点」が求められ、単なる人事業務の枠を超えて、企業の成長を支える「戦略的な人材活用」を重視します。具体的には、経営目標を達成するために必要な人材の確保・育成・配置をどのように行うか、また人的資源の価値を最大化し、競争優位性を高める方法を考えることが戦略人事の核心です。
人事戦略とは、採用・配置・育成などの人事業務全般における課題を解決するための戦略を指します。主に人事部の業務改善を目的とし、効率的な人材マネジメントの実現を目指します。
一方で、戦略人事は経営戦略と直結する人材マネジメント手法です。人事戦略は必ずしも経営戦略や経営計画と直接連動するわけではありませんが、戦略人事はこれらと切り離して考えることはできません。つまり、戦略人事は「経営視点」を持ち、人材を経営資源として最大限活用することに重点を置いている点が大きな違いです。
経営戦略・経営計画は、企業が市場で競争優位を築き、長期的な成長を目指すための道筋です。
一方、戦略人事は、こうした経営戦略の実現に必要な人材や組織体制、企業文化を整備する役割を担います。事業の成果を最大化するためには、経営計画に沿って必要なスキルや能力、リーダーシップを持つ人材を適材適所に配置することが重要だと言えるでしょう。
従来、経営戦略の策定は経営者や経営戦略室が担い、人事部門は採用や労務管理といった人事業務に専念するのが一般的でした。しかし近年、グローバル化の進展やDX(デジタルトランスフォーメーション)の加速により、市場環境の変化はかつてないスピードで進行しています。
この予測困難なVUCA時代において、従来の組織体制では迅速な対応が難しくなっています。そこで、企業が競争優位性を維持するためには、変化に適応できる人材の確保・育成と、柔軟かつ強靭な組織づくりが不可欠です。
このような環境変化に対応するために、人事部門が経営戦略と密接に連携し、人的資源を最大限に活用する「戦略人事」が重要視されるようになりました。
戦略人事の成功事例9選を紹介します。他社の事例をヒントにしながら、自社の課題に合わせた戦略を検討しましょう。
ヤフー株式会社では、2016年に新卒一括採用を廃止し、ポテンシャル採用を実施する旨を発表しました。
ポテンシャル採用では経験やスキルだけでなく、将来性や成長意欲を重視するため、従来の枠にとらわれない多様な人材を採用できます。
また、企業独自の文化や業務プロセスに合わせた柔軟な人材育成が可能となり、結果的に、変化の激しい市場環境に適応しやすい組織を構築できるのです。
GEヘルスケア・ジャパン株式会社では、従来のレイティング(格づけ)による人事評価制度の「9ブロック」を廃止しました。理由としては、9ブロックによって従業員が失敗や他者からの評価を気にしすぎてしまい、前向きにチャレンジできなくなっていたからです。
その後、新しい評価制度として、よい仕事はすぐに評価し、失敗はその場でフィードバックする「PD(パフォーマンス・デベロップメント)」を導入しています。この制度を通して、従業員のチャレンジを促し、次世代を担うリーダーの育成を進めています。
楽天グループ株式会社は、2016年に「Global Innovation Company」を経営戦略に掲げ、この経営政略を支える人材像を「イントラプレナー」として定義しました。
その後、グローバル標準の採用手法を実施したり、価値観・行動指針である「楽天主義」を人材育成の柱にしたりする中で、優秀な人材の育成に向けて取り組んでいます。
株式会社サイバーエージェントは、2006年から「あした会議」を開始しました。これは、サイバーエージェントの「あした(未来)」につながる新規事業や課題解決の方法などを提案し、実現に向けた施策を考案するものです。
また、チームに分かれて事業提案を策定し、代表取締役による審査で評価を競います。その結果、新しい事業や人材育成施策の創出につながり、会社の成長を促進しています。
ネスレ日本株式会社は、人事業務にマーケティングの視点を導入し、従業員の問題を早期に発見し解決できる体制を整えました。その結果、賃金体系・企業年金・労働組合などの人事システムの改革を通して、7年間で売上27%増、利益は78%増を達成できています。
また、自分の顧客課題を発見して、その解決策を考え、小さなレベルで検証まで行う『イノベーションアワード』を開始し、さらなる企業成長を目指しています。
日清食品株式会社は、次世代のグローバル経営人材の育成を目的に企業内大学「グローバルSAMURAIアカデミー」を創設しました。世界で活躍できる人材を「グローバルSAMURAI」と名付け、それぞれに合った育成コースを設けたものです。
加えて、キャリア自律支援策として「NISSIN ACADEMY」を設立し、経営者・リーダー候補を選抜するための研修を実施しています。
オムロン株式会社は、海外の生産拠点にある工場内で、高校教育を提供する「オムロンハイスクール」や地域コミュニティを支援するプロジェクトを実行しました。
その結果、従業員は地域の活性化に貢献するオムロンで働くことにモチベーションを感じ、2017年度の離職率は前年比21%減を実現しています。
三井化学株式会社は、2016年に経営計画と連動した人材戦略を策定し、長期経営計画「VISION2030」に基づいた課題の解決に取り組んでいます。
また、総合化学メーカーとして、多岐にわたる事業のけん引役となる人材育成のため、後継者計画やグローバルレベルでのタレントマネジメントも同時に行なっています。
ダイドードリンコ株式会社は、「人と、社会と、共に喜び、共に栄える。その実現のためにDyDoグループは、ダイナミックにチャレンジを続ける。」を理念として掲げています。
また、理念を達成するために、心身ともに健康で一人ひとりが最大限の力を発揮できる「ワーク・ライフ・シナジー」に向けた制度を推進しています。その中で、従業員の健康リテラシー向上や、副業制度によるエンゲージメント向上を実現しました。
戦略人事を実行するための5つのステップを紹介します。自社の課題と照らし合わせながら、効果的に取り組みましょう。
まずは経営戦略・経営ビジョンを深く理解し、社内の全従業員に共有します。ここでは、経営戦略・経営ビジョンの内容はもちろん、まだ見えていない課題や改善の余地があるポイントも共有することが大切です。
また、しっかり言語化できていない状態で共有すると、情報の受け手によって異なる解釈をする可能性もあるため、事前に経営陣で明確化しておきましょう。
策定した経営戦略・経営ビジョンを組織内で共有したあとは、その内容をもとに自社に必要な人材を明確化していきます。ここでは、経営戦略をどのような過程で達成するのか、達成するには何が必要なのかなど、ゴールから逆算することが大切です。
また、組織改革の実現には時間を要するため、はじめから長期的な目線を持っておきましょう。
自社に必須な人材が定まったら、中長期の経営計画に目を向け、具体的な施策を考案していきます。
また、一定の期間に区切って短期的な目標をいくつか決めることで、スモールステップで取り組みを進められるでしょう。
自社に必要な人材ビジョンを固め、中長期的な経営計画を把握したら、両者をもとに中長期の人事計画を立てていきます。ここでは、ある程度の具体性を持った施策を考案し、組織内で共有できる形が理想です。
また、長期的な目線でのゴールから逆算し、必要とされる人材像を具体的に落とし込んでおくことで、余裕を持った採用活動・人材育成が行えます。
ステップ4までに考案した人事計画は、あくまでも一定期間における人事の方向性を示すものであり、そのままでは実務に活かしきれません。最終ステップとして、実際に落とし込めるよう、人事計画のさらなる具体化を行い、必要な人材の人数や実施方法、期間までも固めていきます。
細かなステップに分けて、段階的に育成スケジュールを設けておくことで、進捗の確認や計画の見直しが容易となります。
ここでは、戦略人事を成功させ、自社の課題を解決するための3つの秘訣を解説します。経営層と人事部が連携し、競争優位性を高める戦略人事を実践しましょう。
企業の持続的な成長と競争力の向上には、経営陣が掲げるビジョンや戦略目標を正確に理解し、全社員に浸透させることが不可欠です。例えば、定期的な全社ミーティングや社内報などを活用して、経営戦略の意図や中長期的な目標、各部署の果たす役割を明確に共有してください。
人事戦略に対して従業員の理解が十分に得られていないと、採用や異動について理解を得られず、不満が生じる原因になりかねません。
また、従業員が自らの業務が企業全体の戦略実現にどう寄与するかを意識することで、組織としての一体感が生まれ、自主的な行動を促せます。さらに、戦略の浸透が進むことで、現場の意思決定が迅速になり、組織全体としてのパフォーマンス向上にも役立つでしょう。
事業戦略の達成には、企業が直面する課題や将来的な成長に対応できる人材の確保が欠かせません。まず、各事業領域で必要とされる専門知識やスキル、経験を具体的に洗い出し、現状の人材とのギャップを分析します。
その上で、採用基準や育成プログラム、キャリアパスを整備し、従業員一人ひとりの成長を促進していきましょう。
施策を効果的に進めるためには、戦略人事と従来の人事の方針に整合性をもたせることが重要です。例えば、チーム全体で目標を達成できるよう協力すべきなのか、チームメンバーをライバルと考えて他者より優秀な業績を残せるよう頑張るべきなのかなど、従業員が混乱しないようにすることが必要です。
加えて、採用・育成・評価・報酬といった各人事施策を、一貫した方向性で運用し、従業員に対して透明性のある人事制度を推進していきましょう。
市場の変化が激しい中で、企業が競争優位性を維持するには、戦略人事の導入が欠かせません。
本記事では、その成功事例や導入ステップを紹介しました。
しかし、戦略人事は導入するだけでは成果につながりません。
経営層と従業員がその意義を深く理解し、既存の人事制度との整合性を考慮しながら進めることが重要です。
本記事で紹介した成功事例やポイントを参考にしながら、自社に最適な戦略人事を実践していきましょう。
株式会社アイルキャリアは、お客様ごとに抱える課題や目標に合わせたオーダーメイドプログラムで”学び”を提供する研修会社です。官公庁・自治体から上場企業、医療法人や学校法人まで様々なお客様に対して、ご要望と時流をふまえた必要な”学び”を、新人から管理職まで幅広く提供し、組織の人材育成を支援しております。特徴としては、その研修で達成したい目標(行動変容)の先にある成果、パフォーマンス(行動変容の結果得らえるもの)までを意識してプログラムを作成することにあります。