AIの進化や生産年齢人口の減少など、急速に変化するVUCA時代において「人的資本経営」が企業・自治体の成長を左右する重要な戦略となっています。人材を単なるコストではなく「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、組織の競争力を高めることが求められています。
本記事では、人的資本経営の基本概念や、研修担当者が押さえるべき人材育成のポイントをわかりやすく解説します。
これからの時代に対応できる組織づくりのヒントとして、ぜひ参考にしてください。
人的資本経営とは、人材を企業の「最大の資産」と位置づけ、長期的な視点で育成・活用することで組織の競争力や成長力を高める経営戦略です。
従来の経営では、人材を「コストのかかる資源」と捉え、ヒト・モノ・カネ・情報の一要素として管理するのが一般的でした。
また、年功序列や終身雇用を前提とした人材の囲い込みが主流でしたが、
現在では「組織と個人が互いに選び合い、共に成長する関係」へとシフトしています。
人的資本経営の導入により、企業は人材の能力を最大限に引き出し、持続的な成長を実現することが求められています。
ここでは、多くの企業が人的資本経営を推進する背景について解説します。
日本市場の変化を正しく理解し、自社の人材を「資産」として捉える視点を持つことが、これからの企業の成長には不可欠です。
自社の競争力を高めるためにも、人的資本経営の考え方を踏まえた人材育成の実践を進めていきましょう。
ESG投資は、環境(environment)・社会(social) ・ガバナンス(governance)の側面から企業価値を評価する手法として注目され、従来の財務指標だけでは測れない長期的な成長やリスク管理の重要性が見直されています。
また、昨今の投資家の意識変化や各国の規制強化により、労働環境の改善や従業員育成も企業評価の鍵となっています。
そのため、人的資本は単なるコストではなく、企業成長のための重要な投資対象と位置付けられており、ESG評価を高めるための戦略としても人材育成の充実が求められているのです。
日本では少子高齢化に伴う深刻な人手不足が進む中、限られた人材で企業競争力を維持する必要性が高まっています。同時に、テレワークやフレックスタイム、パートタイムなど多様な働き方が浸透したことにより、従来の一律な評価や育成方法では個々のニーズに応えきれなくなっているのも事実です。
こうした背景から、企業には従業員一人ひとりの能力やキャリア、ライフスタイルを重視し、柔軟な育成・評価制度を整備することが求められています。
ここでは、経済産業省の「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」がまとめた「人材版伊藤レポート」をもとに、
人的資本経営に欠かせない3つの視点を解説します。
これらの視点を理解することで、自社の人材戦略をより効果的に策定し、人的資本経営を実践するための具体的な施策につなげることができます。
ぜひ、自社の人材育成に活かしてみてください。
企業経営において人的資本は欠かせない要素であり、人的資本経営を成功させるには、人材戦略と経営戦略を連動させることが不可欠です。
人材版伊藤レポートでは、企業の中長期的な経営目標に合わせた採用、育成、評価、報酬の仕組みを構築し、
組織全体が一体となって未来を見据える体制づくりを提唱しています。
人材の成長を組織の成長につなげる仕組みを構築することで、持続的な競争力の強化が実現できます。
人的資本経営を推進するには、人材戦略がビジネスモデルや経営戦略と連動しているかを正しく評価し、目標と現状のギャップを定量的に把握することが重要です。数値データを活用して課題を明確にし、具体的な改善策につなげることで、人材戦略の精度を高めることができます。
ただし、現状のスキルや業務遂行能力は、組織風土や個々のモチベーションなど、定性的要素に影響される部分も大きいものです。
そのため、定性的情報と定量的データの両面をバランス良く見た上で、現状を把握することが重要です。
企業の持続的な成長には、企業理念やパーパス(存在意義)を明確にし、それを基盤とした企業文化を定義・定着させることが不可欠です。
単にスキルや専門知識を持つ人材を採用したり、研修・配置転換などの施策を行ったりするだけでは十分ではありません。
たとえば、全社員が参加する月例の「企業文化ワークショップ」を開催し、企業理念や価値観について議論する場を設けます。
そこで、実際の業務でどのように体現しているかを具体的な事例として共有し、評価する表彰制度を導入することで、
日常の行動を企業文化に根付かせられるでしょう。
ここでは、経済産業省の「人材版伊藤レポート」に示された、人的資本経営を実践するために不可欠な5つの要素を解説します。
先に紹介した人材戦略の3つの視点とあわせて理解することで、より効果的な人材マネジメントが可能になります。
ぜひ、自社の戦略に取り入れていきましょう。
「動的な人材ポートフォリオ」は、企業が変化の激しい経営環境に適応し、
組織として必要なスキルや専門性を柔軟に確保し続けるための中核的な考え方の一つです。
多くの企業では従来、採用した社員を同じ部署や業務領域で長期間にわたって活用する「固定的」な配置・育成が一般的でした。
しかし、市場環境や技術革新のスピードが格段に速くなった今、
企業が長期的に競争優位を確立・維持するには従来の方法を変えることが求められています。
具体的には、必要なタイミングで必要な人材を最適な場所・役割にアサインし、
常にポートフォリオ(人材構成)を「動的」に再設計していく必要があるのです。
企業における「知・経験のダイバーシティ」とは、社員がもつ専門知識やスキル、業務経験、
さらには学歴・国籍・文化的背景といった広範な要素を含めた多様性を指します。
急激な技術革新や市場変化が起こる現代では、同質的な人材ばかりを集めた組織ではそれらの変化に対応しきれない リスクが高まっています。
そこで、多様な「知」や「経験」を組織に取り込むことで、新たな視点やアイデアが生まれ、イノベーションや顧客価値の創出につながるのです。
「リスキル」とは、急激な技術革新や市場環境の変化に対応するために、
従来の専門性や職務経験とは異なる新たなスキルを習得し直すことを指します。
一方、「学び直し(リカレント教育など)」は、今持っている知識やスキルをアップデートし、さらに発展させていくというニュアンスです。
社員一人ひとりが自ら学び続け、新たなスキルを身につけることで、
環境が激しく変化する中でも、企業は持続的に競争力を維持・強化できるでしょう。
人的資本経営においては、単に社員を増やしてそのスキルレベルを整えるだけでは不十分です。
社員一人ひとりが自分の仕事や職場、会社に愛着・誇りを感じ、主体的に成長・貢献しようと思える状態を作り、
意識を高めることが重要だと言えます。
また「会社やチームのために自分の力を発揮したい」「仕事を通じて成長したい」という前向きな気持ちは、
業績や顧客満足度、離職率などにも大きな影響を与えるでしょう。
通勤時間やオフィス環境への制約が緩和されることで、個々人のライフステージやライフスタイルに合わせた柔軟な働き方が可能になります。
その結果、国内外の優秀な人材を採用できる環境が整えられ、多様な価値観やスキルを持つ人材が集まりやすくなります。
また、オフィス維持費や通勤時間の削減により経営資源を有効活用でき、変化する市場環境への迅速な対応力の強化にもつながるでしょう。
国内外で注目を集める人的資本経営には、多くのメリットがあります。
これらを推進することで、企業の成長や競争力強化につながる重要な効果が期待できます。
ここでは具体的なメリットを紹介しますので、自社での導入・実践の参考にしてください。
人的資本経営では、企業の成長戦略と従業員のキャリア・働きがいを一体として考えるため、
結果として、従業員の満足度やエンゲージメントが高まりやすくなります。
さらに生産性の向上、企業の持続的な競争力強化にも好影響を与えるでしょう。
人的資本経営を推進することで、企業と従業員の間に「共通の目的意識」や「長期的視点での相互成長意識」が醸成されます。
その結果、従業員の会社への信頼や安心感、成長意欲を高めることができ、離職率の低下につながるのです。
人的資本経営を推進することで、企業が「人」を最も重要な経営資源として捉え、
多様なバックグラウンド・経験・専門性を持つ人材を組織的に活かすことが可能になります。
また、企業内で多様な知識やスキルを持つ人材が連携しやすくなるため、
既存の枠組みにとらわれない「革新的なアイデア」が生まれやすくなるでしょう。
人的資本経営を推進することで「人を大切にして持続的な価値創造を目指す企業」であるという姿勢が社内外に伝わり、組織の評判やブランド力を高められます。
また、ESG投資の観点でも、人材への投資や多様な働き方の実現はポジティブに評価されるでしょう。
ここでは、人的資本経営の考え方を自社の人材育成に活かすための具体的なポイントを解説します。
「どのように取り組めばよいのか分からない」と悩む企業の人事担当者に向けて、実践のヒントをお届けしますので、ぜひ参考にしてください。
人的資本経営の考え方を人材育成に落とし込む際に重要なのが、経営戦略と人材戦略を連動させることです。
単に従業員のスキルを高めるだけではなく、企業が目指す方向性や事業目標と結び付けた育成を行うことで、社員の成長が組織全体の競争力強化につながります。
まず、経営戦略を起点にあるべき人材像を設定し、現有戦力とのギャップを定量・定性の両面から可視化しましょう。
そうすることで、研修・OJT・越境学習など多角的な育成施策を優先度の高いものから企画・実行できます。
その結果、社員のスキルアップやエンゲージメント向上だけでなく、企業の競争力強化にも直結する人材育成体制を構築できるでしょう。
人的資本経営の観点から人材育成を行う際は、計画や目標を立てるだけでなく、実際に施策を実行し、その効果を検証して改善を重ねることが不可欠
です。
また、OJTやプロジェクト参画などであれば
「いつ、誰が、どの業務に携わるか」「必要なサポートや評価指標は何か」を事前に決めておくと良いでしょう。
本記事では、人的資本経営の概要と、多くの企業で求められる理由について解説しました。
変化の激しいVUCA時代において、企業が市場競争を勝ち抜くためには、人的資本経営の実践が不可欠です。
ぜひ、本記事で紹介したポイントを参考にしながら、自社の人材育成に取り入れてみてください。
株式会社アイルキャリアは、お客様ごとに抱える課題や目標に合わせたオーダーメイドプログラムで”学び”を提供する研修会社です。官公庁・自治体から上場企業、医療法人や学校法人まで様々なお客様に対して、ご要望と時流をふまえた必要な”学び”を、新人から管理職まで幅広く提供し、組織の人材育成を支援しております。特徴としては、その研修で達成したい目標(行動変容)の先にある成果、パフォーマンス(行動変容の結果得らえるもの)までを意識してプログラムを作成することにあります。