昨今、ハラスメントが経営リスク、組織運営リスクの1つとして理解され、その対策が重要視されています。ハラスメントによる不祥事は会社のイメージ低下につながるだけでなく、従業員エンゲージメントの低下を招き離職率増加の原因にもなり得ます。そこで、今回の記事では、会社で重視すべきハラスメントの種類や意味、講じるべき対策について解説します。
ハラスメントとは、相手に身体的もしくは精神的なダメージを与えたり不愉快な気持ちにさせたりする言動を指します。基本的に、ハラスメントは相手に対する言動が意図的であったかどうかは関係ありません。故意的な言動でなかったとしても被害者がハラスメントだと感じる行為は、ハラスメントに該当する可能性が高いものです。
そのため、ハラスメントを防ぐために、一方的なコミュニケーションや過度な相手への叱責は避けなければなりません。
ハラスメントは、性別・人種・宗教・性的指向など特定の属性に基づいて行われる差別的な行為を指します。一般的に、職場や公共の場で見られることが多いものです。一方、いじめは、特定の個人に対して継続的に行われる心理的、または物理的な嫌がらせを指し、ハラスメントの一種ともいえ、学校などの教育環境でよく見られます。
両者の決定的な違いは、いじめが法律で罰せられないのに対し、ハラスメントは法律で罰せられる対象となることです。
ハラスメントの社内不祥事は、会社のイメージダウンを招くだけでなく、従業員エンゲージメントの低下も招きます。社内でハラスメントへの理解を深めるためには、会社に及ぼす悪影響を把握し、共有することが必要です。以下、ハラスメントによって引き起こされる会社への悪影響について詳しく解説します。
ハラスメントが社内の業務に関連して行われた場合、会社は法的な責任を負うことになります。なぜなら、ハラスメントによって被害者が受けた精神的なダメージによる損害を賠償する責任を問われるからです。
また、ハラスメントをきっかけに民事紛争が生じるケースもあります。民事紛争が起きてしまうと、顧客エンゲージメントの低下を招き、顧客からの信用・信頼失墜につながってしまい、業績への悪影響が予想されます。
会社内でハラスメントが起こると、従業員エンゲージメントが低下します。ハラスメントによって、従業員間のコミュニケーションが減ったり、メンタル不調を訴える従業員が増えたりするからです。その結果、会社に対する貢献意欲が下がり業績が悪化します。ハラスメントによる不祥事の発生の影響は、当事者のみならず周囲の従業員、ひいては会社全体の生産性を低下させる恐れがあるので避けなければなりません。
ハラスメントが社内で起こると社内の雰囲気も悪化し、離職者の増加や人材不足に陥る可能性があります。なぜなら、ハラスメントの被害者は、会社に居づらくなるだけでなく、適応障害やうつ病など心の病を発症し、休職・退職せざるを得ない状況になる場合も出てくるからです。また、直接的にはハラスメント被害に遭っていない従業員も、雰囲気の悪い職場環境を嫌い、離職してしまう可能性も考えられます。一般的に、離職率の向上はネガティブな印象を与え、採用活動においても不利にはたらくことが多いものです。
ハラスメントが起こってしまう要因の1つとして、認識の甘さがあげられます。気づかぬうちにハラスメントに値する行動や言動を取ってしまうことがないように、ハラスメントの具体的な種類について理解を深めることが重要です。以下、職場で重視すべき主な7つのハラスメントについて詳しく解説します。
セクシャルハラスメントとは、性的な行動や言動によって被害者に不利益を与える行為であり、対価型と環境型の2種類に分けられます。対価型とは、性的な行動や言動を受けた被害者の拒否や抵抗に対して、直接的に解雇、減給などの不利益を与えるものです。環境型とは、性的な行動や言動で直接的な不利益は発生しないが、被害者が精神的に就業を続けられなくなるものを指します。
セクシャルハラスメントは、性的な内容が多く被害者が声を上げにくい場合が多いため、会社内で相談窓口を設置するなど、被害者が助けを求めやすい環境を整える必要があります。
パワーハラスメントとは、職場環境においての優位的な立場を利用して、被害者の労働環境を害する以下のような行為を指します。
以上のうち、どれか1つでも該当すると判断された場合、パワーハラスメントとなるためしっかり把握しておきましょう。ただし、パワハラ防止法、および指針では、客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適性な業務指示や指導については、職場におけるパワハラには該当しないと明記されていることも確認しておきましょう。
マタニティハラスメントとは、妊娠・出産・育児に関する差別的な言動によって女性労働者の就業環境を害する行為であり、以下2つに分けられます。
従業員の状態に対する嫌がらせ型とは、妊娠に伴う体調の変化によって業務効率が低下した際に、精神的に攻め立てたり解雇を匂わせる発言をしたりするものです。妊娠・出産・育児に関連する制度利用に対する嫌がらせ型とは、産休や育休の取得に対して取得しづらくなるような発言をすることで、被害者が制度を利用できなくするものです。妊娠・出産・育児に関連する制度では、男女雇用機会均等や育児・介護休業法で定められているすべてが対象となります。
モラルハラスメントとは、労働者に対する倫理や道徳を無視した言動を指し、職場への定着率や従業員エンゲージメントの低下をもたらす原因となり得ます。パワーハラスメントとの違いは、職場・業務上においての優位性があるかどうかです。モラルハラスメントは、職場や仕事において業務上の優位性に関係なく起こり、部下による上司に対しての、モラルに反する嫌がらせも該当します。
アルコールハラスメントとは、飲酒に関する嫌がらせで相手を不快にさせる行為を指し、飲酒の強要や酔った勢いでの迷惑行為などが該当します。飲み会への参加・不参加は個人の自由なので、強制や拒否された場合のマイナス的な発言は、アルコールハラスメントです。また、過度なアルコール摂取は急性アルコール中毒を引き起こす可能性があり、ハラスメントかどうかに関わらず、飲酒が苦手な人への強要は避けなければなりません。
リストラハラスメントとは、リストラ対象者への嫌がらせや相手を自主退職に追い込む言動を指します。リストラ対象者への嫌がらせは、リストラとなってしまった相手に対して、能力を見下すなどさらに精神的に追い込む発言をするものです。また、相手を自主退職に追い込む言動には、急な部署異動や転勤、達成不可能な業務の押し付けなどがあげられます。リストラハラスメントは、一般的に役員や管理職などの人事権を有する人が有利な立場を利用して行うため、パワーハラスメントにも該当するケースが多いです。
ジェンダーハラスメントとは、性別によって社会的役割が異なるといった固定観念を元に行う差別的な言動を指します。また、ジェンダーハラスメントは、女性に対してだけでなく男性に対しての差別も該当します。セクシャルハラスメントとの違いは、性的な嫌がらせに限らず、性別に関する差別や不平等な扱いがすべて含まれることです。ジェンダーハラスメントは、個人の固定観念に基づいて行われるため対策が難しいものです。
そのため、社内規定を定めるだけでなく、ジェンダーハラスメントへの理解を深める研修も積極的に実施しなければなりません。
ハラスメントに値する行動や言動を取ってしまう人は、ハラスメントへの理解が足りない場合がほとんどです。また、職場でのハラスメント行為を無くすためには、ハラスメントの知識に加えて、発生する原因を把握しなければなりません。以下、ハラスメントが発生する原因について詳しく解説します。
職場でのコミュニケーション不足は、業務効率の低下を招くばかりでなく、偏見を押し付けてしまったり、誤解や不満を抱いてしまったりする原因にもなり得ます。なぜなら、コミュニケーションが少ないと、相手の考え方や価値観の理解が難しくなるからです。働き方や価値観の多様化が進む昨今では、お互いを理解、尊重するコミュニケーションの重要性について、個人ではなく、会社全体で学ぶ機会を設ける必要があります。
ハラスメントの発生においては、知識不足が最も大きな要因です。パワーハラスメントやセクシャルハラスメントといった言葉を知っていても、それぞれに該当する具体的な行動や言動を理解していなければ、悪気もなく無意識でしてしまうものです。
そのため、経営層も含めた全従業員でハラスメントに関する研修などで知識を身につけ、共通した認識をもつ必要があります。
ハラスメントは個人の意識の低さだけでなく、ストレスを感じやすい職場環境によっても引き起こされます。経営層や管理職に権限が一極集中していたり、達成困難な目標の設定が当たり前な風土であったりするとストレスを感じやすくなります。職場環境においてストレスを感じると、相手への尊重意識が希薄になりハラスメント的な言動を取ってしまうことがあるものです。
そのため、業務に対する不公平感を無くしたり、個人の意見を尊重したりする重要性を社内で共有し、働きやすい職場環境の構築に努めなければなりません。
会社内でのハラスメントを無くすためには、個々の従業員の意識を変えると同時に、組織全体でハラスメントを無くすための環境を作ることも重要です。以下、会社が実施すべき対策について詳しく解説します。職場からハラスメントを無くし、従業員が能力を発揮しやすい職場環境をつくるために、しっかり把握しておきましょう。
会社内でハラスメントを無くすためには、ルール・方針・懲戒処分などに関する明確な社内規定を策定し、周知する必要があります。なぜなら、会社のトップがハラスメントの減少に前向きな姿勢を見せることで、従業員の取り組みに対する意識も向上するからです。例えば、弁護士や社労士と相談しハラスメントに関する内容を入れ込んだ雇用契約書を再度作成し、従業員の同意を得た上で再度取り交わすことなどは効果的です。
ハラスメントに関する社内規定の作成・周知と相談窓口の設置は、同時に行うと良いでしょう。なぜなら、権力的に差がある人からハラスメントを受けた被害者は、なかなか声を上げづらいというのが現状だからです。ハラスメントによる事態の悪化を防ぐためには、守秘義務やプライバシー保護に関するルールを作った上で相談窓口を設置する必要があります。
多くのハラスメントは、理解の無さによって引き起こされます。ハラスメントに関するルールを作っても具体的な内容を理解していなければ、無意識にハラスメントに該当する行動や言動を取ってしまうことが多いからです。また、ハラスメントを他人ごとと考えている従業員もいるため、誰しもが加害者になり得る問題であることを研修などを通じて理解、浸透させる必要があります。
社内からハラスメントを無くすためには、社内のハラスメントに関する現状を把握する必要があります。なぜなら、実際に不満やストレスを感じている従業員の声を知ることで、適切な対策が実施できるからです。また、従業員に職場での悩みに関する調査を行うことで、被害者自身が自覚していなかったハラスメントも見つけることが可能となります。定期的にハラスメントに関する調査を行うことは、社内からハラスメントを撲滅するためには効果的といえます。
ハラスメントを無くすためには、コミュニケーションが取りやすい職場環境を作る必要があります。なぜなら、ハラスメントの発生は、コミュニケーション不足から起こる場合もあるからです。一方的なコミュニケーションではなく、被害者側が不快に思った行動や言動を指摘できる関係性であればハラスメントは起こりにくいものです。
そのため、上下関係や部署での隔たりを無くし、従業員同士が気兼ねなくコミュニケーションできる風通しのよい職場環境を構築する必要があります。
職場でのパワーハラスメントは、往々にして立場が上の人物から下の人物に対して行われます。これは、上司が部下の評価を行うという一方通行的な評価制度が原因の一つになっていると言えます。そのため、上司から部下への評価だけではなく、いわば部下から上司への評価やフィードバックである「360度評価」を導入することも、パワーハラスメントを防ぐ上では有効です。上司も「自分は評価するだけではなく、評価される立場でもある」という自覚を持つことで、部下を対等に扱ったり、丁寧なコミュニケーションを心がけたりすることが期待できます。
「ハラスメント・ハラスメント」という言葉をご存知でしょうか。これは、近年、世の中で多様なハラスメントが叫ばれていることを逆手にとり、「ハラスメントだと過剰に主張する行為」のことを指します。この通称「ハラ・ハラ」への対応策としては、社内でハラスメントの定義を明確に定めてガイドラインとして浸透させたり、客観的に状況を判断する第三者機関としてハラスメント相談窓口を設けたりすることが挙げられます。いずれにせよ、当事者同士がハラスメントについて正しく理解することが求められます。
社内でハラスメント不祥事が発生すると、従業員エンゲージメントや顧客エンゲージメントが低下し、業績の悪化・人材不足・顧客からの信頼失墜など、多くの悪影響が生じます。社内のハラスメントを無くすためには、個人の意識を変えるだけでなく、組織全体での取り組みが必須です。ハラスメントに関する明確な規定を作成したり、コミュニケーションが取りやすい職場環境を構築したりすることで、全社一丸となった対策が可能となります。従業員の誰もが能力を発揮しやすい会社を作り上げていきましょう。
株式会社アイルキャリアは、お客様ごとに抱える課題や目標に合わせたオーダーメイドプログラムで”学び”を提供する研修会社です。官公庁・自治体から上場企業、医療法人や学校法人まで様々なお客様に対して、ご要望と時流をふまえた必要な”学び”を、新人から管理職まで幅広く提供し、組織の人材育成を支援しております。特徴としては、その研修で達成したい目標(行動変容)の先にある成果、パフォーマンス(行動変容の結果得らえるもの)までを意識してプログラムを作成することにあります。