職場などで「生産性向上」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。しかし、具体的な生産性向上の方法や、「生産性向上」の意味を知る上で前提となる生産性の定義を把握している人が少ないのが現状です。今回は生産性の定義を押さえた上で、実際に行われた生産性向上の手法を紹介します。自社の生産性向上のための施策作りに役立ててください。
職場や仕事で「生産性向上」や「生産性」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。実は、多くの社会人が目にしたり耳にしたりしている言葉であるにも関わらず、生産性向上のための具体的な方法や「生産性」の定義を知らない人が多いのが実情です。ここでは、「生産性」の定義を3つの観点から解説します。
「物的労働生産性」とは、労働に対して生産される物量を指標にした生産性のことです。資源の採掘量や工場における生産数、畑での作物の収穫量などの生産性を表す際に使われます。生産された物資が必ずしも消費者の需要に適した商品であるとは限らないため、物的労働生産性の向上と金銭的利益は必ずしもイコールになるとは限りません。しかし、物的労働生産性を高めることは生産品のコストを抑えることにつながり、間接的に利益に関わっているため重要な指標であると言えます。
「付加価値労働生産性」とは上述した「物的労働生産性」とは逆に、労働に対して発生する付加価値となる金銭的利益を指標とした生産性のことを指します。ビジネスで使われる「生産性」は「付加価値労働生産性」を示すことが一般的です。GDP(国内総生産)も「付加価値労働生産性」を指標にしています。金融業界やサービス業界などの「物的労働生産性」が低い産業は、「付加価値労働生産性」が高くなるケースが多いです。
「全要素生産性」は”TotalFactorProductivity”の略で、資本や労働などの量的な生産要素の増加以外の質的な生産性のことを指します。具体的には下記の項目が指標の代表例です。
TFPは直接的に計測できるものではないため、全体の変化率からTFP以外の要因を取り除いた残差で推計されます。少子高齢化や人口減少が進む日本において、経済の成長を維持するためにはTFPの向上が重要であるとされており、今後ますます注目される指標となるでしょう。
生産性を向上させることはメリットが多く、デメリットはほとんどありません。今後、少子高齢化と人口減少によって、多くの日本企業が労働力を確保するのが難しくなるでしょう。そのため生産性の向上は必要不可欠で、今からその準備をしておくのが賢明です。ここでは、生産性を向上させるメリットについて詳しく解説します。
生産性が向上すると、生産コストの低下による値下げやサービスの向上に直結します。つまり、国内市場だけでなく国際市場においても優位性を担保するような競争力に寄与するということです。逆に言うと、生産性の維持や低下は経済的なリスクを孕むと言えます。日本の国際競争力は低迷しており、2023年にスイスのビジネススクールIMDが発表した「IMD国際競争力ランキング」では、調査対象63カ国・地域の中で日本は34位でした。競争が激化する国際社会で生き残る企業になるためには、労働生産性を高めることは必要不可欠でしょう。
生産性の向上は、より少ない人的コストで多くの売り上げを生み出せることと同じです。つまり、人件費が削られて売り上げが増加するため利益が上がるということです。日本は少子高齢化の影響で労働人口が減少しており、どの企業も優秀な人材の確保に苦労しています。仕事があってもそれをこなすマンパワーがなくなると、企業の売上、収益も減少してしまうでしょう。少ない人数で最大限の利益を生み出すことは、他組織に対して優位性を発揮することになります。それはビジネスチャンスの拡大にもつながるでしょう。利益が上がるのは必然的なことであると言えます。
生産性の向上は、1人あたりの生産性を高めることと同義であることを説明しました。そのため生産性を向上させれば、サービスや製品のクオリティを維持しながら労働時間を減らしたり、福利厚生を充実させたりすることが可能になり、労働環境の改善につながります。また、利益が拡大するため、賃上げのハードルも下がるでしょう。
労働環境が改善されることは労働者のモチベーションや集中力アップにも寄与するため、さらなる生産性の向上が目指せます。つまり、生産性の向上は労働環境を改善して、企業にとっても労働者にとってもお互いウィン・ウィンの関係を生み出すのです。
「生産性の向上」は企業や組織レベルで行うことだけにとどまりません。個人やグループレベルでも生産性を向上させるための取り組みや施策は数多くあります。従業員一人ひとりが生産性を向上させるための施策に取り組むことで、組織全体の生産性向上に大きな影響を与えるでしょう。
自分の会社や部署では、ZoomやGoogleMeetなどのオンラインツールを活用したリモート会議を実施しているでしょうか。リモート会議の際に、身だしなみを整える煩わしさや、顔を見せる気恥ずかしさからカメラをオフに参加したことがあるかもしれません。また、その他さまざまな事情でカメラオフで参加せざるを得ない場合もあるでしょう。
しかし、リモート会議の場合は、対面での会議と比べると身振りや手振り、そしてアイコンタクトなど非言語コミュニケーションを通じて得られる情報が限られています。リモート会議のカメラをオフにしてしまったら尚更でしょう。表情はコミュニケーションの一種であることを忘れてはなりません。
リモート会議中のカメラをオンにすることは、顧客や同僚とより円滑に意思疎通を図ることに繋がり、結果、生産性の向上に繋がることも多いものです。
高圧的な態度を取る従業員がいると、職場の雰囲気が悪くなり士気が下がります。また、責められることを恐れて間違いを指摘する人がいなくなり、ミスが頻発するリスクもあるでしょう。メリハリを保ちつつも、リラックスできる環境づくりは社内のコミュニケーションを活発にして生産性を高めてくれることにつながります。
また、快適で働きやすい職場環境は、従業員の満足度の向上と離職率の低下にも効果的です。労働人口が減少している日本において、それぞれの従業員にできるだけ長い期間高いパフォーマンスで働いてもらうための環境づくりは、今後より重要性を増していくでしょう。そして、離職率の低下は、採用コスト削減にもつながるため、間接的に企業の利益の向上にも寄与するということです。
つづいて、組織全体で行う生産性向上のための施策を2つ紹介します。
企業間連携は生産性向上に効果的です。下記の図は、企業間連携の実施の有無別に直近3年間の経常利益額の実績を表したものです。
出典:中小企業庁「第2節 企業間連携による労働生産性の向上」
この図を見ると、企業間連携は生産性向上に大きく寄与することがわかるでしょう。
下記は企業間連携の具体例を3つ挙げたものです。
【事例1】
中小企業間での顧客情報の共有によって、工数の効率化や工場の稼働率を向上させることにつながりました。
【事例2】
旅館同士で食材、備品、顧客情報を相互活用するためのネットワークサービスを構築して、繁忙期が異なる旅館同士で労働力を融通させることで生産性の向上を果たしました。
【事例3】
物流プラットフォームによる輸送の効率化、企業連携によるスケールメリットを活かした共同購入などの施策によって高い売上高を実現させることに成功しました。
出典:厚生労働省宮城労働局「生産性向上の好事例」
これらの例を参考にしながら、貴社に合った連携先の企業探しや連携する業務を模索するのに役立ててください。
DX化は”DigitalTransformation”の略で、IT技術を業務に導入して効率性を向上させること、また、商品・サービスの価値向上や組織文化、従業員の働き方までを変革することを指します。DX化によって、これまでは人間が行なっていた仕事をIoTやAIを使って自動化させることが可能です。そして、従業員は「人間にしかできない仕事」に集中することができるようになるでしょう。その結果、タスクが削減し、生産性を向上させることにつながるのです。また、人力で行っていた業務の時短効果も見込めます。
DX化の具体例は下記の通りです。
「なんとなく始めてみる」「他社がやっているからとりあえず始めてみる」といった理由でDX化を進めると生産性の向上に繋がらない可能性があります。
DX化は手段と位置づけ、目的を決めて段階的に着手するようにしましょう。
この記事では、「生産性」には下記の3種類があり、組織の方向性や目的によって向上させるべき生産性に違いがあることを解説しました。
また、個人・グループレベル、そして組織レベルの2つに分けて生産性を向上させるためにできる施策の具体例についても説明しました。生産性を向上させるためにできることについて、はっきりとイメージできるようになったのではないでしょうか。この記事を参考にしながら、貴社の生産性を向上させるための施策作りに役立ててください。
株式会社アイルキャリアは、お客様ごとに抱える課題や目標に合わせたオーダーメイドプログラムで”学び”を提供する研修会社です。官公庁・自治体から上場企業、医療法人や学校法人まで様々なお客様に対して、ご要望と時流をふまえた必要な”学び”を、新人から管理職まで幅広く提供し、組織の人材育成を支援しております。特徴としては、その研修で達成したい目標(行動変容)の先にある成果、パフォーマンス(行動変容の結果得らえるもの)までを意識してプログラムを作成することにあります。